自宅オフィスをゴージャスに

公私混同の境界線


 家具業界が売り上げを伸ばしている。コロナ禍の第2波、第3波を見越して巣ごもりせざるを得ない時間を快適に過ごすため、多くの消費者が財布のひもを緩めているようだ。今後、テレワークが常態化していくと、高級家具の需要も伸びるものと予想されている。経費の使い方をめぐっては、経営者の〝公私混同〞を突いてくる国税当局も、今回ばかりはある程度スルーすると見る向きもある。コロナ禍での〝オフィス化〞の境界線を探ってみた。


 コロナ不況の真っただ中、インテリア小売業大手のニトリの業績が好調だ。巣ごもり生活に飽き、長期戦を覚悟した消費者が快適性を求めて家具の買い換えに走っているという。不動産大手のオープンハウスが実施したアンケート調査によると、コロナ禍の影響で自宅に「仕事や勉強ができる場所や家具」を望むようになった人は回答者の8割に上っている。

 

 この動きは、テレワークの普及と推進によって当分の間は続きそうで、さらに今後は企業オーナーなど富裕層にまで広がっていくと見られている。都内のバイヤーの一人は、「高級オフィス家具に動きが出ている。自宅のオフィス化がさらに進んで、自宅の役員室化がトレンドになりそうだ」と、ラグジュアリー家具に注目が集まりつつある現状を語る。

 

 自宅を仕事場にするにあたり、必要となった出費は会社の経費として損金に算入することができる。反対に仕事に必要ではなく、本来は個人が支払うべき費用を会社が負担しているとみなされると、役員が受けた経済的利益は所得税の課税対象となり、また法人もその金額を損金にできなくなる。

 

社長の在宅勤務を快適に

 通常であれば「公私混同」と税務調査で追及されるような支出についても、コロナ禍にあっては認められやすくなると見られている。

 

 都内の国税OB税理士は、「企業が何らかの形で在宅勤務を取り入れていくことを国が推奨している状況では、以前のように〝自宅関連の費用〞というだけで疑いの目を向けてくることは難しくなるだろう」と、当局の姿勢にも変化が現れていくと予測する。

 

 もちろん、コロナ禍で経営者の公私混同が見過ごされやすくなっていくと言ったところで、経費化が認められる線引きはあいまいだ。日常生活と同じ状態で応接セットを買い換えただけであれば、税務調査で経費性は否認されるだろう。国税の疑いの目をそらすためには、あくまでも業務用として使っていることを認めさせる必要がある。

 

 そのためには自宅の一部を仕事専用スペースにすることや、自宅内の応接室で実際に役員会議や顧客対応を行うなどの実績も問われることになるだろう。人と会わないための在宅勤務にあっては矛盾する話だが、工夫するしかない。

 

 対策としては以前から自宅の一部を「出張所」や「第二事務所」として登記する方法も活用されているが、私的な利用への制限がかかることや住宅ローン減税が事業用部分に適用できなくなることなど様々な問題が生じるおそれがあるため、注意が必要となる。

 

 また、Zoomなどを使った顧客とのオンライン商談などのために「内装を整える」という理由で経費化するのは、前述のOB税理士によると「厳しいのではないか」とのことだ。あまりに粗末な背景では経営者としての体面にかかわるが、それだけでは自宅のリフォームが仕事に必要といえる根拠にはなりにくく、またZoomには背景画を好みで選択できる機能もあるため、経費化の理由付けにはならないというのが理由だ。

 

リモート設備の充実も

 役員の持ち家だとそのようなリスクがあるが、社宅であれば問題は生じにくい。社宅は会社の持ち物であるため、家具や設備を多少豪華にしても、個人に経済的利益があるとは限らないためだ。

 

 社宅を利用している役員は、床面積や不動産の固定資産税を使って算出する「賃貸料相当額」を会社に支払っていれば、基本的に給与課税されることはない。その社宅の一室に応接室や会議室がある場合、会社の利用状況や利用面積に応じて賃貸料相当額を引き下げることができる。つまり、役員個人の負担は少なくて済む。そして、誰もその応接室を使わないときに役員が一時的にテレワークに使ったからといって、大きな問題になることはない。

 

 家具だけではなく、自宅で業務用として使うパソコンなどIT設備も会社の経費を使って充実させやすくなっている。在宅勤務を強いられているのならば、自宅のパソコンやネット会議用のウェブカメラ、また業務ソフトなどを買い換えるチャンスと言えそうだ。

 

 このほか自宅の水道光熱費やインターネット代については、仕事のための出費だといっても、プライベートで使うことも多く、仕事分の実費を細かくひとつひとつ算出して会社から受け取るのは現実的ではない。そのため実務では、実際に役員が支払った金額にかかわらず、毎月数千円〜数万円の定額の「在宅勤務手当」を支給するケースが多い。この在宅勤務手当は給与と同じ扱いになるため、事業年度の途中から支払うことを決めると、役員給与とみなされて損金にはできない。

 

 コロナ禍によってプライベートな空間までを仕事に使うことが増えていく。業務で使う以上は、支出を会社の経費で落として当然だ。経費化のルールを守って、堂々と自宅オフィスのラグジュアリー化を図りたい。

(2020/09/28更新)