税務当局が狙うのは貴金属⁉

コロナ禍で金高騰


 金価格が高騰している。NY金先物相場は1オンス=1800ドルの大台を突破し、2011年9月以来、約8年10カ月ぶりの高値水準となった。過去最高値の1923ドルまで、100ドルに迫る勢いだ。新型コロナウイルスの影響で、安全な資産とされる金に投機マネーが流れ込んだ。その一方で金の価格が上がるほど消費税の仕組みを悪用した利ザヤ稼ぎの闇ビジネスも横行するため、当局は密輸の増加に目を光らせている。新型コロナの感染が収まった際には、貴金属取引に狙いを定めた税務調査が増える可能性も否定できない。


 新型コロナウイルスの感染拡大によって、急激と言っていいほど金価格が上昇している。金価格はここ数年、ジワジワと上昇を続けており、今だけの傾向とはいえないが、戦争や経済危機などの有事に強い「安全資産」とされる金にマネーが集中するのは、感染拡大への根強い不安感が大きな要因になっているというのが、有識者の一般的な見方だ。

 

 金の価格が上昇すれば、当然ながら国税当局がその取引に目を光らせるようになる。資産隠しという面に加え、金の価格が上がるほど密輸によって消費税分の利ザヤを稼ぐ輩が増えるためだ。コロナ禍の今年4月には、中部国際空港で、韓国から輸入した電動工具のなかに金塊18キロが隠されていたのが見つかり、名古屋税関が押収している。

 

 日本での金の売買には消費税がかかるため、例えば1億円の金塊を外国で購入し、日本で売ると1億1千万円を受け取れる。そのため海外から金を持ち込む場合には、税関であらかじめ消費税相当分を納めることが義務付けられている。しかし入国時に申告せずに税関をすり抜け日本国内の買い取りショップなどに持ち込むことで利ザヤを稼ぐことが可能になる。

 

 昨年10月に消費税が8%から10%に引き上げられたことで、金密輸の旨味も増した。金地金は覚醒剤などと違って非合法な物品ではないため、所持しているだけで摘発されるようなことはない。金密輸の闇ビジネスが横行するのはこのためだ。

 

顧客の脱税もあぶり出す

 法人に対する税務調査は、事業年度ごとに狙うべき「重点調査業種」を国税庁や各国税局がそれぞれ指定し、各税務署はその業種を優先的に調査対象にしている。このリストには、毎年の脱税告発件数の多かったワースト業種が当てられ、例年建設業、不動産業、クラブ・バーなどがターゲットとなっている。しかし今年は当局にとっても税務調査を実施するのが簡単ではない。

 

 コロナ禍でのターゲットを考えれば、好況の貴金属業界は当局から狙われる可能性が十分にあると言わざるを得ない。消費税を悪用したスキームにより、2013年には12件だった金の密輸が17年には1347件に増加している。当局は当然、売却先である国内の貴金属業者への監視の目を強めることになるだろう。

 

 もちろん、顧客の多くは高所得者だ。マルサの摘発事例では、貴金属業者そのものを狙うことで、隠した所得を貴金属に化けさせていた顧客の脱税もあぶり出したケースが報告されている。反面調査先としても効率の良い業種というわけだ。

 

「プチ富裕層」にも狙い

 貴金属業者は扱う品が高価なため、開業時に多額の資金を所有しており、当局としても「取りやすい業種」だ。国税当局では、17年7月から全国の国税局に富裕層プロジェクトチームを設置して、その金の流れに監視の目を光らせている。これまで国税が目をつけていた「富裕層」に加え、その範囲から漏れていた「プチ富裕層」に対しても強化体制がとられており、その層が行う金取引にも狙いをつけている。

 

 また資産隠匿の目的で貴金属を購入したり、マネーロンダリングに使われたりすることも多い。そうした意図で貴金属を購入した顧客は匿名で、多くの場合で領収書の宛名は「上様」となる。この「上様伝票」が多ければ多いほど、当局は「調べれば何か出てくる」と疑いの目を持つ。

 

 調査では棚卸資産を中心に、現金の流れや在庫の有無、預かり品や貸出品の状況なども細かくチェックする。どこを突かれても疑いを抱かれないように、棚卸資産については記録をしっかりと残しておきたい。資産隠しや脱税のお先棒担ぎと見られないよう万全の態勢で臨みたい。

(2020/09/08更新)