経営者の個人保証は続くのか

融資の常識を跳ね返せ!

金融機関によって対応に差


 金融機関から融資を受ける際に経営者の個人保証を外すための基準を示した「経営者保証に関するガイドライン」ついて、金融庁が取りまとめた活用実績によると、2017年度に経営者の保証を求めた融資の割合は全体の83・7%に上っている。ガイドラインの適用以降も、相変わらず貸し手優位の状況が続いていることになる。だが、実際には金融機関の多くが融資先探しに奔走しているような状態にあり、借り手側が一方的に融資条件を突き付けられる立場ではないとの見方もある。金融庁は、「金融機関により融資の取り組みに違いがみられる」と分析している。従来の枠にとらわれず、借り手の目線で金融機関を選ぶ時代になってきているようだ。


法的な拘束力はないが自主的な順守を求める

 金融機関が中小企業に融資をする際には、貸し倒れリスクをできるかぎり軽減させるため経営者に個人保証を求めることがほとんどだ。

 

 経営者は個人資産が危険に晒されるおそれが高まることから、融資を前提とする積極的な事業展開を避けてしまうことも珍しくない。後継者候補が事業の引き継ぎに難色を示す大きな理由にもなることから、金融庁では「経営者保証に関するガイドライン」の適用を2014年2月に開始し、個人保証を伴わない融資を促している。

 

 ガイドラインでは、①法人と経営者の資産関係が明確に区分・分離されていること、②返済能力に問題のない財政基盤があること、③財務状況を適時適切に開示する経営の透明性を確保すること―の3要件を満たすケースでは、経営者保証を外すよう金融機関に求められるとしている。法的な拘束力はないが、金融機関に自主的な順守を求めているものだ。つまりは返済に不安がなければ個人保証を外すよう金融機関に促している。

 

ほとんどのケースで個人保証を要求

 しかし実際のところ、同族会社で役員を親族が占めているような中小企業は、個人資産と法人資産との区分が明確に分離できていないこともあり、ガイドラインの基準を満たしている企業のほうが少ないだろう。

 

 ガイドライン適用から4年半が経過したが、金融機関による融資実態は、経営者に個人保証を求めてくるケースがほとんどであることに変わりはない。最新データである2017年度の調査によると、548の民間金融機関が行った新規融資(346万6515件)のなかで、経営者の個人保証に依存しない融資は全体の16・3%(56万4973件)だった。

 

 数字の上からは、なかなか個人保証を外せない状況がみて取れるが、実際に金融機関はガイドラインをどう捉えているのか、借り手側としては気になるところだ。金融庁が6月末にガイドラインを利用した融資状況などについて地域銀行12行の協力を得て行った実態調査の結果を公表した。

 

 金融庁では、無保証で融資する件数が少ない金融機関について、「金融機関内の規定やチェックシートがガイドラインをそのまま落とし込んだものとなっており、前出のガイドライン3要件の判断基準が抽象的なままで、要件にひとつでも不十分な点があれば、経営者に個人保証を厳格に求める」と分析している。

 

 一方、無保証で融資する件数が多い金融機関については、「経営トップが、むやみに保証を求めないよう指導を徹底する方針を定め、担当者が保証の要否を簡易に判断できるよう、具体的・簡素な運用基準を設定している」と、経営者の事情を鑑みて個人保証の有無を判断しているとみている。

 

要件を満たさなくても個人保証は外せる

 続いて、ガイドラインの3要件を満たしていなくても金融機関が個人保証を外す決定を下したという例を見てみたい。

 

 建設業を営むSさんは、60歳を超えたころから数年のうちに事業承継をしようと考えていた。そこでメインバンクに長期運転資金を申し込む際、保証債務の負担を後継者である息子に残したくないとの理由から個人保証を外してほしいと申し入れた。同社は会社から経営者個人への立替金勘定があり、法人とSさんの資産の明確な区分・分離はできていなかったが、立替金勘定が近年減少していることや、今後さらに解消を図っていく意向が示されていることが考慮され、個人保証を外すことができたという。

 

 またガス設備の工事やメンテナンス業を営むAさんは、メインバンクに新規融資の申し込みをする際に、個人保証が外せるか検討してほしいと申し入れた。Aさんの会社は債務超過で、ガイドラインの基準を満たしてはいなかったが、銀行が検討した結果、会社単体では債務超過であるものの関連会社との連結では資産超過であることや、業績が堅調で今後も利益計上が見込まれることなどを踏まえ、返済能力があるとして個人保証を外すことを認めた。

 

 この二つの例は、ガイドラインの要件を満たしていなくても金融機関に働きかけたことで個人保証を外せたケースだ。経営者の個人保証を外すことは、積極的な事業展開につながるだけでなく、社長自身の人生プランや事業承継、そして従業員の生活にも大きく関わってくる。

 

金融機関とどう交渉するべきか

 経営指導業務を行っているあるコンサルタント(東京都)は、「ガイドラインが出て以降、銀行によって対応の差がはっきりしてきました。経営者の個人保証を外すことに前向きな銀行は担当者がガイドラインについてきちんと理解できていますが、そうでないところはガイドラインへの理解が浅い傾向にあると感じます。ガイドラインについての説明が丁寧で、個人保証解除に向けたアドバイスをする金融機関には好感が持てますね」と話す。

 

 経営者ならば、個人保証を外してお金を借りたいと誰もが思うところだが、先に述べたようにほとんどの金融機関では経営者に個人保証を求めてくるのが実情だ。

 

 前出のコンサルタントは「相変わらずの金融機関は『個人保証を外してください』と経営者が要求しても、『検討します』と言ってはぐらかします。態度を保留にしておくことで、融資を急ぐ経営者に、個人保証を外すことをあきらめさせようというのが金融機関の戦略なのです。しつこく交渉しなければ、なかなか個人保証を外してくれませんので、借り手としては外せない明確な理由を聞き出すことが肝要です」とアドバイスする。

 

 一方、銀行での勤務経験がある税理士(福岡県)は「今後、徐々に個人保証を外した融資の割合が高まっていくと思います。ですが現状では、保証を必要としない融資割合は全融資の10件に1件に過ぎません。『個人保証を外せ』と強引に要求するのは、顧問先の借り入れそのものを難しくするおそれがあります」とし、業績が良くない企業には、個人保証を受け入れるスタンスも必要だと指摘する。

 

 借り手である経営者は、金融機関の個人保証への姿勢を正確に見極め、融資条件を交渉する必要が高まっていると言えよう。

(2018/10/04更新)