国税滞納発生額2年連続減

着々と進む事案処理


 国税を期限どおりに払えない「滞納」の最新状況(国税庁発表)によると、新たに発生した滞納額は2年連続で減少し、残高もピーク時の3分の1にまで減少するなど比較的落ち着いた推移を示している。しかし過去のデータを見ると、消費税増税が行われた直後には必ず滞納が激増していることから、来年10月の10%への引き上げ後にも再び滞納件数が跳ね上がるものと予想される。自社の手元資金を欠かさないようにするのはもちろんのこと、取引先が滞納して回収が遅れるような事態にどう備えるかなど、経営者として考えることは多い。


 2017年度に新たに発生した国税の滞納額は6155億円で、前年よりわずかに減少した。17年度末時点での滞納額の残高は8531億円となり、19年連続の減少となった。年度末での残高がピークだった1998年の2兆8149億円から7割減ったことになる。

 

 しかし、新規発生額は毎年減り続けているわけではないので、国税が督促や差し押さえなどを使って、発生を上回るペースで滞納整理を進めている状況がみてとれる。国税庁では「早期かつ集中的に電話催告など」を行い、また「消費税滞納を含む滞納事案を確実に処理」したことが残高の減少につながったとしている。

 

 これまでの新規滞納発生額の推移をグラフで見ると、ピークだった1992年から増減を挟みながら減少を続けてきたなかで、発生額がぐっと増えた2つの山があることが分かる。一度目は98年で、二度目が2015年だ。この2年の共通点は、消費税率が引き上げられた時期に当たるというところにある。一度目は3%から5%に、二度目は5%から8%に引き上げられ、滞納する事業者が一気に増えたことが、発生額の急増につながった。

 

滞納から差し押さえまであっという間

 消費税は、客から受け取った消費税と取引先に支払った消費税の額を比べて、受け取った額のほうが多ければ差額を納めるというシステムだ。つまり受け取った消費税を納税資金として分けておけば納税時に困ることはないのだが、実際には日々の資金繰りのなかで支出され、いざ納付という段階になって手元資金が足りないというのはよくある話だろう。

 

 言うまでもなく、来年10月には8%から10%への消費税率の引き上げが予定されている。取引本体の金額が1千万円だとすれば実に100万円の消費税が課されるわけで、消費者としても事業者としても、これまでにない消費税負担が重くのしかかることになる。当然、過去2度の増税時と同じように消費税の滞納も一気に増えるだろう。全ての中小企業にとって無関係な話ではない。

 

 仮に国税を滞納してしまうと、どうなるのか。まず納期限を過ぎても税金が納められない場合、期限から50日以内に督促状が届くことになる。この時点で納付しても、期限から経過した分の延滞税などは当然かかってしまう。それでも税金が納められないと、納税者個々の事情にもよるが、督促状の発送から10日を経過した時点で、法律上は財産の差し押さえが認められる。滞納から差し押さえまでの猶予は、予想以上に短いことを覚えておきたい。差し押さえられた財産は、順次ネット公売などにかけられて滞納分に充てられることになる。17年度には約800件、約4億円分の財産が売却されている。

 

 差し押さえを避けるためには、税金を期限内に納付することがベストなのは言うまでもないが、どうしても手元資金が厳しいなら、税務署に相談した上で分割納付が利用できる。完納するまでの延滞税は避けられないが、少なくとも差し押さえという最悪の展開を避けられるだろう。また一度差し押さえられてしまっても、公売での売却処分を待ってもらう「換価の猶予」制度もある。15年度からは納税者の申請が認められるなど使いやすくなっているので、もしもの時に使える知識として押さえておきたい。

 

取引先の不払いリスク増

 来年10月の消費税増税によって事業者による滞納が増えることを踏まえ、もう一つ無視できないのが、取引先の滞納による自社への影響だ。自社の業績が順調で、納税資金に不安がなかったとしても、取引先も同様であるとは限らない。自社の売上の大部分を占めるお得意先が、滞納という状況に陥る可能性はゼロではない。

 

 国税徴収法8条では、国税優先の原則として、「国税は、納税者の総財産について、(中略)別段の定めがある場合を除き、すべての公課その他の債権に先だって徴収する」との規定を置いている。つまり、もし取引先が滞納をしてしまうと国税がすべてに優先する債権者となるわけだ。こちらへの不払いや借金があったとしても後回しにされてしまい、その結果、自社が何らかの重大な損失を受けたとしても、何かの保障がなされるわけではない。

 

 こうした事態を避けるためにも、自分の身は自分で守らなければならない。もちろん取引先の資金繰り状況などを把握するには限界がある。しかし少なくとも消費税の増税直後は滞納企業が激増するものと認識し、いつもより注意を払っておくことが重要だろう。また万が一の事態に備え、できるかぎり手元資金に余裕を持たせておくなどの対策も併せて講じておきたいところだ。

(2018/10/03更新)