積み残された10の税金

2020年度税制改正


 税制改正大綱に盛り込まれず、次年度以降の「検討事項」として先送りとなったテーマがある。また検討事項にも盛り込まれず、業界や省庁が長年にわたって要望しながら実現が叶わなかった項目も多く存在する。大企業向けの見直しが中心となった2020年度税制改正大綱で、中小事業者や資産家に関係がありながらも盛り込まれることのなかった10の税金をここでピックアップしてみた。


① M&A版事業承継税制

 

 中小事業者関連で、今回の税制改正の柱になると目されていたのが、会社を他社に売却する「M&A」による事業引き継ぎへの税優遇だ。自民党の甘利明税制調査会長が積極的な姿勢を見せるなど、検討は前向きに進んでいたが、具体的な制度設計が最後まで詰められなかった。

 

 同制度では後継者のいない中小事業者がM&A(企業売買)で事業を他業者に引き継いだ際に、自社株の譲渡や事業譲渡の際に買い手側に課される税負担を猶予する方針だったが、ファンドなど後継者のいない承継先が買収後に転売した場合、事業存続を判断しづらいなどの課題を解消できなかった。

 

 ただし今後も検討を続けるとのことで、中小事業者の世代交代が国にとっての喫緊の課題となるなか、次年度での改正の可能性はそれなりに高いものと言えそうだ。

 

 

② 上場株式の相続税評価

 

 相続税対策に大きく関わる、上場株式の相続税評価の改正が見送られた。現在、相続財産としての上場株式は、相続時の時価や相続発生の前々月の終値の平均額などから最も低いものを基に評価される。しかし、金融庁などが「他の価格変動リスクが小さい資産に比べ、相続税評価上の扱いが不利」であると指摘。非上場株式と同様に死亡前年の年平均株価なども選べるようにするべきだと主張していた。

 

 

③ 金融所得課税の強化

 

 現行制度では分離課税で一律約20%となっている税率の引き上げが議論されていたが、盛り込まれることはなかった。他の所得が累進税率であるのに対して金融所得課税は一律であることから、所得1億円を超えたあたりから収入に占める税の負担率が下がっていくという逆転現象が起きている。これが格差の拡大につながっているとして、金融所得課税の強化を求める声は根強いが、株式市場への影響を懸念する官邸の意向で見送られる状況が続いている。

 

 

④ カジノ所得への課税

 

 今年から「検討事項」に加わった項目が、カジノでの儲けに対する課税方式のあり方だ。大綱では「国内外のギャンブル課税の状況、今後制定される(中略)規制の具体化の状況、最新の技術の活用可能性」などを踏まえて検討を継続するとしている。これまでの議論では、マイナンバーカードを活用した個人との紐付けや、源泉徴収制度による取りっぱぐれの防止などが案として挙がっている。IR事業を巡っては、国会議員と事業者との贈収賄が明るみになっている。こうした問題が、税の議論にどのような影響を与えるのか注目される。

 

 

⑤ 国際連帯税の導入

 

 外務省にとって長年の宿願ともいえる国際連帯税は今年も実現することはなかった。国際連帯税とは、航空券などに税を上乗せして、その税収を伝染病対策、貧困問題、環境対策といった国境を越えた取り組みに充てるというものだ。外務省は同税の導入を11年連続で要望しているが実現には至っていない。もっとも環境破壊やエネルギー資源の管理といった世界的な課題に国際連帯税の税収を充てる議論は世界的にも進んでいて、実現可能性は徐々に高まりつつある状況だと言える。

 

 

⑥ 年金課税の見直し

 

 公的年金、個人年金、金融所得などへの課税の抜本的な見直しは、前年も「検討事項」となったテーマだが、今回は特に、政府税制調査会の主要検討項目となったことで議論の進展が期待されていた。しかし大綱にあるように、「世代間および世代内の公平性の確保や、老後を保障する公的年金、公的年金を補完する企業年金を始めとした各種年金制度間のバランス、貯蓄・投資商品に関する課税との関連、給与課税などとのバランス」と、検討が必要な内容は広範囲にわたり、また国民の関心も高いテーマだけに、簡単に答えの出る話ではないようだ。

 

 

 

⑦ 小規模企業の税制

 

 個人事業主、同族会社、給与所得者のバランス、個人と法人成りのバランスを図るため、「所得の種類に応じた控除」、「人的控除」を総合的に検討するとしている。これまた、数年間「検討事項」に積み残されたままの常連であり、今年も答えが出ることはなかった。

 

 

⑧ 消費税の免税点制度

 

 個人事業主が事業承継をした際には、創業と同様に、売上額の多寡にかかわらず承継した年を含めて2年間は消費税の免税事業者となる。この点について税の使途をチェックする会計検査院が「事業者の事務処理能力などを勘案して納税義務を免除する免税点制度の趣旨に沿ったものではない」と指摘し、見直しを求めていた。検査院の調査では、多くの事業承継のケースで後継者の課税売上が免税点のボーダーラインである1千万円を超えていたというが、今年の税制改正には盛り込まれなかった。

 

 

⑨ 医療損税

 

 治療器具や設備の仕入れには消費税がかかる一方、診療では消費税が取れないという医療損税の問題は今に始まった話ではないが、昨年10月の消費税増税によってさらに医療機関への負担が増すことから、見直しの一つのタイミングと目されていた。しかし検討項目として挙げられるにとどまった。

 

 

⑩ ゴルフ場利用税

 

 同税の廃止を求める超党派議連にとって、五輪イヤーとなる20年度の税制改正は実質的な〝タイムリミット〞だった。そのため、これまで全面廃止を旗印にしてきたところを非課税要件の拡大にまで譲歩してロビー活動を続けてきたが、結局、自治体によっては税収の3分の1を占めるという同税の維持を求める意見を覆すことは叶わなかった。

(2020/03/02更新)