また狙われた!社長の節税策

超富裕層向けの優遇策は継続


 令和2年度の税制改正大綱は、所得が数億円〜数百億円レベルの〝超富裕層〞にとっては一安心と言えるものだったかもしれない。税負担を大幅に減らしている金融所得課税の仕組みの見直しが、大綱に盛り込まれなかったからだ。その一方で、主に所得が数千万円から1億円くらいまでの人が利用してきた不動産節税を封じる2つの改正が大綱に記された。年収が数千万円ほどの中小事業者の税負担はこれまで以上に重いものとなりそうだ。


 国税庁のデータによると、年間所得が5千万円から1億円の人の所得に対する税負担率は28・5%で、全所得階層の中で最も高い。それ以上に所得がある人は負担が減っていき、金銭的に余裕があるはずの所得100億円超の人の所得税の負担率は17・1%にまで下がる。これは、所得が上昇するほど株式の配当などの金融所得の割合が高くなることと関係している。

 

 給与所得など総合課税の対象となる所得に対する所得税の最高税率は45%であるのに対し、分離課税となる金融所得は15%しか課税されず、金融所得の割合が高い〝超富裕層〞の負担を大幅に減らしている。しかし、この仕組を是正する内容は、大綱に盛り込まれなかった。

 

 一方で、一部の富裕層にとっては厳しい2つの改正が大綱には盛り込まれた。いずれも税金の圧縮効果が非常に高い手法で、金融所得課税の仕組みの恩恵を一定程度までしかうけられない年収数千万円〜数億円の富裕層が主に利用してきた節税策だ。

 

海外中古物件スキームにメス

 ひとつは海外の中古不動産を購入し、減価償却の仕組みを利用して所得税の納税額を減らすという手法だ。減価償却は資産ごとに決められた法定耐用年数に応じて行うのが原則で、建物の耐用年数は材質によって木造22 年や鉄筋コンクリート造47年などと決められている。ただし中古物件の築年数が法定耐用年数を超過している場合、法定耐用年数の2割の期間で減価償却することも認められている。

 

 この仕組みを利用するのが今回規制されることとなったスキームで、例えば築22年を超える海外の木造住宅を購入して賃貸経営を始めた場合、中古物件の購入費を木造の耐用年数22年の2割である「4年」(端数切り捨て)で償却できるので、多額の課税所得を短期間で減らすことが可能となる。

 

 しかし改正後は、国外の中古物件の貸付で赤字が出た場合、その物件についての減価償却は生じなかったものとみなされる。大綱の文言を見ると、2021年以降の各年の不動産所得に適用される予定で、不動産の取得時期に関する記載はないため、改正法施行以前に取得した物件の赤字についても今後は所得から控除できないということになる。

 

 ここで押さえておきたいのは、今回の改正はあくまでも「国外中古建物」を対象としたもので、国内の不動産であれば同様の手法をこれまで通りに講じることができるという点だ。海外不動産の赤字の控除が封じられることとなった以上、日本の不動産に投資した方が税負担が少なくて済むと考える人もいるだろう。

 

 この節税スキームに加え、今回の税制改正大綱で規制が入った別の不動産節税策が、アパート経営者の消費税還付を封じるものだ。

 

 消費税の還付額は売上全体の中で課税売上が占める割合に応じて決まり、その割合が95%以上なら仕入れ分の税額を全額控除でき、引ききれなかった分は還付を受けられるが、95%未満なら控除額が減額される。賃貸業だけを営んでいる事業者は、居住用のアパートやマンションの賃料収入には消費税が課税されないことから、課税売上割合はゼロとなる。たとえアパートの建築や修繕の際に多額の消費税を支払っていても、還付が受けられない。

 

 そこで一部の事業者は、賃貸業以外の別の事業によって課税売上を生み出し、還付を受けるという節税策を講じていた。効率よく課税売上を生み出す事業として注目されたのが金地金の売買だ。購入と売却を繰り返すことで高額な課税売上を確実に計上できるため、不動産経営に関する消費税の還付を主目的とした金取引が行われてきた。

 

 しかし今後は、税制改正によって、居住用建物の課税仕入れについては、仕入れ税額控除の適用が認められなくなる。金取引の課税売上があっても賃貸業の消費税の計算に算入することができず、不動産オーナーは還付を受けられなくなる。

 

 この改正で注目しておきたいのは、2020年10月以降の建物の取得(仕入れ)に適用するという点だ。すなわち、それ以前に物件を取得していれば改正の影響は受けない。10月完成予定の物件であるなら、9月に前倒しして取得することも検討したい。

 

 また、今年3月までに締結した契約に基づいたものであれば、10月以降の取得であっても現行法によって還付を受けることができる措置もとられる予定となっている。税制改正を見据え、駆け込みでの契約が増えることもありえそうだ。

 

「超」の付かない高所得層にしわ寄せ

 ここまで見てきた海外の中古不動産の購入による節税とアパート経営者の消費税還付といった対策は、不動産を購入する原資が必要となるため、一定以上の財産がなければ基本的に手をつけることができない。

 

 特に海外の中古不動産の購入による節税は、総合課税の対象となる不動産所得や給与所得と、分離課税の対象となる長期譲渡所得の税率の差を利用したスキームであるため、低所得者層には向かず、所得税の最高税率が適用される所得4千万円を超える層に効果的だった。その点を考えると、金融所得課税の仕組みの恩恵をうけられない、所得が数千万円〜1億円くらいの富裕層を狙い撃ちにした見直しと言える。

 

 そもそも給与所得などに対する所得税の税率は、所得が4千万円を超えると一律45%となり、年収が数千万円でも数十億円でも変わらないということ自体が公平感を損なう仕組みと言える。財源の確保に向けた国の視線は大企業や超富裕層には向かず、最終的に中小事業者へしわ寄せがくる状況となっている。

(2020/02/28更新)