知っておきたい印紙税の節約術

消費税記載方法で大きな差


 印紙税は税金の専門家である税理士の多くが廃止を要望している税金だ。2019年度の税制改正にあたっても税理士会から「廃止すべき」とする意見が上がっていたが、見直しについて大綱に盛り込まれることはなかった。印紙税の課税が続く以上、自社の税負担を軽くするには、制度のルールを確実に把握して節約する方法を探らなくてはならない。特に消費税の税率引き上げにより、文書の書き方によっては同じ取引でも印紙税額に違いが生じやすくなる。印紙税の節税ポイントをまとめた。


 「印紙税 受け取り出すたび 顔を出す」

 

 群馬県の前橋税務署が昭和60年に作成したいろはかるたの「い」の読み札に記載された一句だ。領収書などの文書を発行するたびに印紙税が登場することを表現している。平成30年度の印紙税収入は1兆500億円で一般会計歳入の1%を占め、国にとっては手放せない税収源となっている。

 

 会社にとっては身近な税金であり、税負担が過重になることもあるため、印紙税の廃止を望む声は多い。東京税理士会や東京地方税理士会など複数の税理士会は税制改正要望書で「廃止すべき」と言い切っているほか、一部の行政機関でも見直しを求めている。例えば経産省は廃止にまでは言及していないものの、平成22年から「制度の根幹からあり方を検討し直す」ことを国に要望し続けている。だが、廃止に向けた本格的な議論が進んでいるという話は聞かない。

 

契約書の電子化で税額ゼロに

 

消費税の税抜価格を明確に

 印紙税を節約するには、税額が契約書などの課税文書の「記載金額」に応じて決まるという点を押さえておく必要がある。たとえ契約金額は同じでも、消費税の書き方によっては税法上の記載金額が変わり、税負担が重くなることがある。逆に言えば、記載の仕方で税額を抑えることが可能となる。

 

 例えば請負契約書に記した金額が「請負金額1080万円、消費税額8%含む」や「請負金額1080万円(税込)」だと、国税当局は記載額を1080万円とみなすので、印紙税額はその額に対応する2万円となる。これに対して「請負金額1千万円、消費税80万円、計1080万円」や「請負金額1080万円(税抜き金額1千万円)」とすれば、税法上の記載額は1千万円と判断されるので、課税される印紙税は1万円で済む。つまり、取引対象となるモノやサービスの価格は、消費税を含まない「税抜き価格」で文書に記すことが節約につながる。

 

 税込み表示のままだと、消費税の増税により、同じ契約金額でも印紙税額の負担が重くなることがある。仮に税抜価格が925万円の請負契約とすると、8%税率なら消費税を含めた契約金額は999万円で、税込み表示でも印紙税法上の記載額は1千万円以下だが、10%税率になると1017万5千円となって1千万円を超えるため、税抜きの記載に変えないと印紙税額が増えてしまうことになる。

 

文書のペーパーレス化

 印紙税の課税は明治6年に始まり、これまで細かいルール変更が何度も加えられてきたが、紙による取引を前提としていることに変わりはない。

 

 この点が、電子文書でのやり取りが行われるようになった現在の取引慣習との間で齟齬が生じている。同じ取引でも紙で取り交わす契約書には課税されるが、PDFで送信する契約書には課税されないという「課税の公平性を損なう」(東京地方税理士会の税制改正要望書)状態となっているわけだ。

 

 すなわち、契約書などの文書を電子データに統一してやり取りすれば、大幅に税負担を減らせることになる。

 

不要な文書は作成しない

 印紙税は取引ごとではなく文書ごとに課税されるので、ひとつの契約に対し、契約書を2通作成して「甲乙共に1通ずつ保管する」とすると、2通それぞれに印紙税が掛けられる。契約成立を証明する文書の原本を自社と取引先の双方で保管しておきたいというのであれば2通必要だが、一方が単に控えとして取っておきたいというだけなら、2通目を原本のコピーで済ませれば印紙税が掛からない。

 

 また、ひとつの契約に対して文書を複数に分けることが節約につながる場合もある。例えば1500万円の手形に対する印紙税額は4千円だが、300万円の手形5通に分けて発行すると3千円(300万円の手形に対する税額600円×5通)で済むことになる。

 

仮契約書作成の際は注意

 不動産の売買などでは本契約を締結する前の段階で「仮契約書」を取り交わすことがあるが、仮契約書も本契約同様に印紙税の課税対象となる。

 

 ただし、本契約書に「平成31年2月28日付の仮契約書の内容を本契約とする」などとしたうえで契約金額を記載しなければ、本契約書は印紙税額表の中で最も額が低く設定されている「契約金額の記載のないもの」に該当し、契約金額にかかわらず印紙税額は200円で済む。

 

税率引き上げに伴う金額変更にも課税

 印紙税の節約術ではないが、消費税の増税を前に押さえておきたいのは、税率引き上げに伴い、既存の契約の消費税相当額を増額するための文書を新たに作成すると、200円の印紙税の納税が必要になるということだ。ただし、消費税の増額分が1万円未満なら課税されない。

 

 税務調査で印紙税の納付漏れを指摘されると、本来の印紙税の額に加え、その2倍の金額のペナルティーが加算される。調査を受ける前に自主的に申出書を提出して納付すれば本来の税額とその1割のペナルティーで済むので、収入印紙の貼り忘れに気付いたら早めに対応するのが無難と言えそうだ。

(2019/03/07更新)