ふるさと納税〝狂騒曲〟

制度の趣旨はどこへやら


 ふるさと納税を巡る〝狂騒曲〞が終わらない。豪華返礼品による寄付争奪戦に業を煮やした総務省が4月から規制強化に舵を切るも、全国トップクラスの寄付を集める大阪府泉佐野市が猛反発。法改正前の駆け込み寄付を対象とした「100億円還元キャンペーン」を打ち出し、怒った総務省側は4月を待たず前倒しでの新ルール適用を匂わせるなど、対立は激化の一途をたどっている。愛するふるさとに恩返しをできるはずの同制度が、なぜこのような争いの場となってしまったのだろうか。


 任意の自治体に寄付をすると所得税や住民税の税優遇を受けられる「ふるさと納税」を巡り、石田真敏総務相は2月の定例会見で、税優遇の対象となる自治体を指定する新たなルールを前倒しで適用する可能性を示唆した。一部の自治体がルール変更までの期間に限定した「駆け込みキャンペーン」を行っていることを受けたものだ。

 

 石田総務相は会見で、豪華返礼品を継続している自治体に対して「一日も早く是正をしていただきたい」と苦言を呈した。さらに記者が「新ルールが開始するまでの自治体の取り組みも指定の判断材料となるのか」と質問すると、「指定のための基準の具体的な内容については、今後検討していくことになる」と、新基準の適用時期を前倒しすることを否定しなかった。

 

 ふるさと納税制度を巡っては、寄付金を奪い合う自治体間の競争が過熱したことから、2019年度税制改正で、①返礼品の価格は寄付金額の3割以下、②返礼品は地場産品に限る―という新たなルールが盛り込まれた。

 

 税優遇が受けられる寄付先は総務省による指定制とし、ルールに従わない自治体は除外される。4月から自治体の指定を始め、納税者の寄付に新ルールが適用されるのは6月からとなっている。

 

〝全面抗争〟を選んだ泉佐野市

 これまでも総務省はたびたび豪華返礼品を廃止しない自治体に批判の矛先を向けてきた。そして最後までその対象となったのが、大阪府泉佐野市だった。多くの自治体が総務省の強気な態度の前に膝を屈してきたなかで、泉佐野市だけが〝全面抗争〞の立場を崩さなかったわけだ。

 

 同市は、肉や酒だけでなくビール詰め合わせやタオルセットといった幅広い品目、高い返礼率を売りに寄付金を集めてきた。「まるで通販のカタログだ」とやゆされもしたが、結果的に寄付者の人気を集め、17年度には全国首位の約135億円の寄付を集めるに至っている。

 

 多くの自治体が民間企業のポータルサイトを頼り、仲介料として寄付額の約1割を支払うなかで、泉佐野市は全国でいち早く独自の寄付サイトを立ち上げて仲介手数料をなくし、その分を返礼率の上積みに回すなど、いわば安倍政権が地方自治体に求める〝自助努力〞を重ねてきた結果であるとも言える。

 

 それだけに、総務省が豪華返礼品を用意する自治体を「悪者」扱いしたことに対する反発も強かっただろう。昨年、総務省が実施した返礼品に関するアンケート調査でも、全国1788自治体のうち唯一泉佐野市だけが「無回答」となっている。

 

 その泉佐野市が2月5日に始めたのが、「100億円還元・閉店キャンペーン」だ。新ルールが始まるまでの2月・3月の寄付を対象として、通常の返礼品に加えて、さらにネット通販大手アマゾンのギフトカードを最大で寄付金額の2割相当分還元するというもの。反響は絶大で、同日以降、同市のホームページにはアクセスが殺到し、テキストのみの緊急災害情報用のページが表示される状態となった。

 

 泉佐野市のキャンペーンは、ただでさえ高い返礼率に換金性の高いギフトカードを上乗せするという、総務省に真っ向から喧嘩を売る内容だ。石田総務相が怒るのも無理からぬ話だが、同市は市長名のメッセージを発表し、「総務大臣のお言葉は『自治体は総務省の意向や考えに異など唱えず、黙って従っていればよい』と仰っているかのようです」とむしろ反発する姿勢を示した。

 

 さらに「現在のふるさと納税制度が完璧であるとは思っていない」としつつも、「ルールの変更を行うのであれば、広く社会の意見を求め、少なくともふるさと納税が財源に多大な影響を及ぼす地方自治体の声を聞き、十分に論議を行ったうえで取り組むべき」とも述べ、現在の狂騒曲の元凶は制度の不備であり、欠陥ルールのツケを自治体に押し付ける総務省こそが「身勝手」だと断じた。

 

対立はチキンレースの様相

 両者の対立は深まるばかりだが、少なくとも実務として4月から新ルールが始まり、6月以降の寄付については指定外の自治体への寄付で税優遇が受けられないことは確定している。指定に当たって泉佐野市の現在の振る舞いが考慮されるかは未知数だが、総務省としても自治体の反発を呼ぶ強権の発動はなるべく抑えたいとの思惑から、「前倒し適用を匂わせているうちに泉佐野市が折れてくれるのが望ましい」というのが本音かもしれない。

 

 一方、泉佐野市としては、なかば〝討ち死に〞覚悟で3月までにできるだけの寄付金を集めておきたいという狙いもありつつ、税収を長く確保していくためには4月以降も税優遇からの除外指定を受けたくないのは間違いない。とはいえ、ここまであからさまに対立してしまっては今さら退くこともできず、総務省が前倒ししてまで新ルールを当てはめてくることはないとの期待も捨てていないだろう。

 

 どちらが先に折れるのか、両者の争いはさながらチキンレースの様相を呈しているが、そう考えているのはもしかしたら総務省の側だけかもしれない。泉佐野市の「100億円還元・閉店キャンペーン」のトップページには、キャンペーンを開催する理由として「残念ながら、訳あってこのたび本市ふるさと納税は、一旦閉鎖する運びとなりました」と明記されている。〝最後の戦い〞に臨む一地方自治体の、悲壮な覚悟がうかがえる。

(2019/03/28更新)