狙われる一般社団法人

100億円の申告漏れ指摘されたケースも


 陸上自衛隊東富士演習場の地権者で作る一般社団法人などが、名古屋国税局の税務調査を受けて約100億円の申告漏れを指摘された。一般社団法人や一般財団法人が法人税を課されないための要件である公益性がないと認定されたためだ。近年、相続税対策などを目的に一般社団法人を設立するケースが増えているが、税務処理を誤ると巨額の追徴課税を食らうことになりかねない。課税と非課税の境界線を探る。


 本州最大の8800ヘクタールを誇る東富士演習場は6割が民有地。それを国が借り上げる形で使用している。今回、約100億円に上る申告漏れを指摘されたのは、同演習場が所在する静岡県の御殿場市、裾野市、小山町にある地権者10団体だ。いずれも一般社団法人か一般財団法人で、演習場周辺に住む地元の市民らが会員となっている。

 

 社団法人・財団法人の制度は、10年前に大きく変わった。それまで社団法人・財団法人は、主務官庁の基準を満たし、公益性のある活動をする団体しか認められなかった。厳しい条件を満たす代わりに、収益などについては法人税が非課税とされていた。

 

 それが2008年に行われた公益法人改革によって、社団法人・財団法人は「公益」と「一般」の2種類に分類された。公益では税優遇と引き換えに活動内容などに、より厳しい条件を課せられる一方、一般社団法人・財団法人については登記のみで設立でき、株式会社のように自由な営利活動ができるようになった。

 

 ただし、得た利益についても株式会社と同様、法人税が課される。そして申告漏れを指摘された10団体は、もともとは公益法人として法人税の課税対象ではなかったが、公益法人改革が行われて公益法人となるための要件が厳格化したことで、一般社団法人や一般財団法人になった経緯がある。

 

「敬老祝金」は利益供与?

 今回、申告漏れを指摘された10団体は「一般法人」であるものの、税金面での優遇を受けられる「非営利型」の一般社団・財団法人だった。非営利型の法人は、公益法人になる要件は満たしていないものの、剰余金の分配を行わず解散時にも残余財産の配分をしないなどの定めを置いた法人のことだ。

 

 非営利型の法人は、税法上は公益法人とほぼ同じ扱いを受けられるという利点がある。ただし注意したいのは、公益法人や非営利型の一般社団法人だからといって、全ての利益が非課税になるわけではない点だ。

 

 具体的には、限定列挙された34の収益事業については利益に法人税が課され、それ以外の事業からの収益であれば原則的に非課税となる。34の収益事業には物品販売業や金銭貸付業、製造業、旅館業などが該当する。地権者10団体の主な収入源である賃料収入は、収益事業には含まれていなかった。

 

 それにもかかわらず名古屋国税局が申告漏れを指摘した理由は、非営利型法人と認められるための要件の一つである「特定の個人又は団体に特別の利益を与えることを決定し、又は与えたことがないこと」という規定だ。

 

 10団体は、国から得た賃料収入を地元老人会や消防団への助成、学校の備品購入などに充てていた。そのなかには、会員である地元高齢者へ支給した「敬老祝い金」や、会員向けの記念品代といった支出が含まれていたという。これらの支出が、会員向けの福利厚生だったのか、祝い金などの形を取った〝利益還元〞だったのかは分からないが、少なくとも国税当局はこれらの支出を「特定の個人への利益供与」と認定した。そして要件を満たさない以上、国から得た賃料収入の全額に法人税がかかるとして、約100億円の申告漏れという指摘を突きつけた。

 

 過少申告加算税を含めた追徴課税額は20億円超になるとみられる。ほとんどの団体はすでに修正申告と納税を済ませたが、1団体は処分を不服として国税不服審判所に審査請求した。

 

税制改正で規制強化

 今回、国税に狙われたのは非営利型の一般社団・財団法人だが、似たようなケースは営利型の法人でも起こり得る。一般社団法人が相続税対策に使われる理由は、社団法人などには株式会社のような持分がないので、どれだけ出資していても法人の保有する資産や負債は出資者の所有物ではなく、相続税の対象にならないためだ。中小オーナー企業の社長一族の相続では自社株式が主たる財産となるため、これをオーナー個人から社団法人などに移すことによって相続税を大きく節税できるというわけだ。

 

 しかし一般社団法人などの財産が相続税の対象とならないのは、法人の財産が「誰のものでもない」ことが前提となる。これは非営利型法人の要件が「特定の個人や団体に利益を供与していないこと」としているのと同様だ。つまり、もし財産が実質的には同族会社に支配されていると認められれば、相続税の対象となるリスクを常に抱えている。

 

 この点については最新の18年度税制改正で、実質的に同族が法人を支配していることについての明確な基準が設けられた。①相続開始直前時点で、総理事数に占める同族役員数が2分の1を超えている法人、②相続開始前5年のうち3年以上で、総理事数に占める同族役員数が2分の1を超えている法人――については、今後は法人に譲渡された財産についても相続税や贈与税を課すこととなっている。

 

 今回の非営利型の一般社団法人のケースだけをもって、社団法人や財団法人が国税の〝メインターゲット〞になっているとは言い切れない。しかし税制改正の内容から、少なくとも〝要注意対象〞として、国税の視線が注がれていることは確かだ。新たに設立する法人だけでなく、改革前からある法人についても、あらためて課税と非課税の境界線をしっかり確認しておきたい。

(2018/07/31更新)