法人保険への加入など

黒字ならやっておきたい決算対策

損金になる支出を増やす


 多くの企業が決算を迎える3月末まで残り1カ月となった。どの会社も決算の作業に追われながら節税策を練ることになるだろう。できるだけ早い段階でおおよその年間所得を把握して、その額に見合った効果的な対策をとれるようにしたい。生命保険への加入をはじめとした、損金を増やして黒字を圧縮する方法を整理した。


保険料の年払いで黒字を圧縮

 決算時に駆け込みで実施する節税対策の王道と言えば生命保険への加入だろう。決算月に翌事業年度分の年間保険料を前払いすれば、一定額を損金にでき、黒字を減らして法人税額を下げることが可能となる。全社員分となれば多額の支出なので所得の引き下げ幅は大きくなる。

 

 代表的な商品は養老保険で、会社を契約者、役員や社員を被保険者として加入し、満期保険金受取人を会社、死亡保険金受取人を被保険者の遺族とすると、会社が支払う保険料の半分を損金にできる。

 

 生保を使った節税策では、法人向けがん保険の扱いに近年大きな変化があったので注意が必要だ。6年前までは解約返戻金のあるタイプの終身がん保険に法人が加入すれば、払い込んだ保険料の全額を損金にできたが、現行で損金にできるのは保険料の半分となっている。ただ、税メリットが大幅に減ったとはいえ、半分は損金にした上で、死因の3割を占めるがんのリスクに備えられるので、加入を検討する価値がある商品であることには変わりない。支払い保険料を損金にできる保険にはほかに、契約期間に応じて保険金が増える「逓増定期保険」、保険期間が長期にわたる「長期平準定期保険」などの商品がある。

 

 完全掛け捨ての保険ではなく、保険金や解約返戻金を必ず受け取れる保険では、受取金が益金として法人税の対象となるので対策を練っておく必要がある。保険金や解約返戻金を受け取る時期に合わせ、社長や社員の退職金の支払いや大規模な設備投資など損金になる費用を支出する計画を立てることが節税のポイントとなる。

 

損金算入できる経費を前倒しで支出

 保険に限らず、損金になる経費を増やせば当期の黒字を減らせるので、翌事業年度に予定している支出があれば年度内に支払うことを検討したい。

 

 中小企業は30万円未満の減価償却資産を年間300万円まで全額損金に算入可能なので、旧式のパソコン等を新機種に入れ替える予定があれば年度内に購入すると当期の黒字を圧縮できる。

 

 また老朽化した事務所や商品組み立てのための機械など、事業用の固定資産を修繕・修理する費用は損金になるが、資産の価値が高まり耐久性や資産価値が増す修理だと、初年度で全額を損金にすることはできない。

 

 社員に支払う決算賞与や社員旅行の費用も損金算入が可能だ。社員のモチベーションを高めることにもつながるため一考の余地があるだろう。なお、社員旅行を「福利厚生費」として損金にするには、旅行が4泊5日以内で、参加する社員が会社全体の半分以上であることが必要となる。このルールを超えた社員旅行の費用は、社員への「給与」として課税対象となる。

 

 販売が見込めない在庫があるなら、年度内に廃棄することにより帳簿価格分が損失となり黒字を減らすことができる。また「決算セール」や「在庫一掃セール」などと銘打ち原価より安く商品を販売すると、本来より少ない額といえども現金が入るうえ、原価との差額を損失に計上できる。

 

 販売見込みのない不良在庫の処分は、税メリットに加え、倉庫スペースの確保や管理コストの削減にもつながるので、経営改善効果は大きい。

 

決算月の変更も検討の余地あり

 売上のピークの時期が決算月と重なっている会社は、決算月を変更することで、効果的な節税策を練りやすくなる可能性がある。

 

 年間の法人所得は書き入れ時の業績次第で大きく変わるため、会社はその時期が終わるまで所得の概算を把握できない。毎年3月が売上のピークの会社が決算月を3月に設定しているとすると、決算ギリギリになって想定以上の所得があることが分かり、その所得に見合った節税策をとるには手遅れということもある。

 

 こうした会社は決算月を2月に変更すれば、当期内で売上がピークの前年3月末の時点で年間売上の概算を出すこともでき、早めに効果的な節税策を検討することが可能だ。書き入れ時という繁忙期に決算対策を考えなくても良いというメリットも生まれる。また日本の企業は3月を決算月に設定していることが多く、税務申告書の提出期限である5月は税理士の繁忙期に重なる。3月決算の会社は決算月を別の月にすると、顧問税理士が比較的余裕のある時期に対応してもらえるようになることも利点といえる。

 

 決算月の変更には、株主総会の開催や定款の見直し、税務署への届け出といった手続きが必要になり、手間が掛かる。変更は節税だけを考慮して安易に行うものではなく、また今すぐ実行できるものでもないが、今後に向けて検討の価値はあるだろう。

 

 どの対策をとるにしても節税だけに目が行ってしまうのは問題がある。決算期に慌てて無駄な支出をしてしまえばかえって会社の財務状況にマイナスだ。早い段階から計画的に策を練ることが効果的な節税につながることを意識しておきたい。

(2018/02/28更新)