残しちゃいけない〝負〟動産

リスクだらけの相続税対策


 国税庁はこのほど、2018年に土地や建物を売った人の譲渡所得の合計金額が5兆円を超え、9年連続でプラスを記録したと発表した。譲渡所得が伸び続ける背景には、近年続く地価の上昇傾向があり、土地の値段が上がるということは、相続税対策の重要性がますます高まっていることを意味する。相続税の増税をきっかけに急増した賃貸アパート建設は、家賃保証契約が後に撤回されるなど、様々なリスクが顕在化しつつある。今後、相続税対策を講じる上で注意すべきポイントはどこか、最新データを基に令和時代の不動産活用法を探る。


 国税庁が公表した2018年分確定申告の実績によると、確定申告書を提出した人のうち、土地や建物を売却して所得を得た人が35万3千人いた。その所得の合計金額は5兆328億円で前年から5・8%伸び、9年連続のプラスを記録した(グラフ)

 

 譲渡所得が伸びた背景にあるのは、近年の地価の上昇傾向だ。国交省が3月に発表した最新の公示地価では、全国の地価は前年から1・2%上昇し、4年連続で値上りした。住宅地ではリーマン・ショック以降、初の上昇に転じた前年からプラス幅を拡大し、地方圏では全用途でバブル期以来27年ぶりのプラスに転じるなど、これまでは都市部にとどまっていた地価の上昇傾向が、ついに全国に波及しつつある。こうした全国的な地価の高騰が、そのまま土地・建物の譲渡所得の伸びにつながっていると言える。

 

 地価の上昇はそのエリアの経済に好影響を与える一方で、不動産オーナーの相続税対策という観点から見ると素直に喜べない面もある。相続で受け継がれた土地の財産としての価額を計算する際には、公示地価や実際の取引相場などが基となる。つまり地価の上昇は、そのまま相続税負担の増加となって表れるわけだ。

 

 相続財産として見たとき、何の評価減もできない現金に比べて様々な特例を利用できる不動産はそれだけで有利だ。だが、その不動産も使い方次第で子や孫に課される相続税額は大きく変わってくる。これこそが「相続税対策は不動産対策」と言われるゆえんで、その代表的な手法として今も昔も検討されるのが、賃貸アパートやマンションの建設にほかならない。

 

 賃貸アパート建設が相続税対策として検討される理由は、相続税評価額の軽減の特例が利用できることに加えて、それ自体が賃貸料という収入を生み出す点にある。賃貸物件があれば、土地オーナーが健在なうちは自身の資産形成ができ、相続後は子や孫の生活の助けとなる。不動産管理会社を介せば物件の管理など多くの業務を手放し、実質的な〝不労所得〞とすることも可能かもしれない。これらの理由から、多くの土地オーナーが相続税対策として賃貸不動産を建設してきた。

 

「家賃保証」「サブリース」には落とし穴も

 しかし、賃貸不動産を使った相続税対策は様々なリスクも内包している。特に相続税の増税によってアパート建設が流行した2015年以降、賃貸不動産が持つリスクが顕在化し、オーナーに重大な損害を与えるケースも増えていることは見逃せない。

 

 昨年、シェアハウス「かぼちゃの馬車」を運営するスマートデイズが倒産した際、問題となったのは家賃保証システムだった。入居者が入らなくても家賃をオーナーに保証するという「サブリース」方式で契約しながら、後から市場環境の変化などを理由に、当初オーナーに対して約束していた賃料の支払いをストップするというやり方だ。同様の手法を使っていた会社も相次いで破産し、「家賃保証」の約束を信じてアパートを建設した不動産オーナーは多額のローン債務のみを背負うこととなった。

 

 スマートデイズがターゲットにしていたのは主に若年層のサラリーマン大家などだったが、同様の「サブリース」方式による契約は、相続税対策としてのアパート建設を選んだ多くの不動産オーナーにも当てはまる。業者はオーナーに対して「家賃一括保証」などをうたった契約を持ちかけるが、実は家賃は相場の変動などに応じて引き下げられることが契約に盛り込まれていて、数年後には当初の想定利回りを下回ることも珍しくない。子に残すはずの不動産がマイナスだけの〝負〞動産になってしまうわけだ。

 

430万戸の〝空き家時代〟

 今年2月、消費者団体として提訴権を持つ3団体のうちのひとつである消費者機構日本が、全国の賃貸アパートオーナーに情報提供を呼び掛けた。その内容は、相続税対策として多くの資産家にアパート建設を持ちかけた業者について、契約時に約束されたはずの一時金の返還を受けられないなどのトラブルが相次いでいるというものだ。相続税の増税とともに盛り上がったアパート建設バブルがひと段落し、当時は見えなかった様々なリスクが顕在化しつつあるのが現状と言えるだろう。

 

 また業者との契約に問題がなかったとしても、賃貸アパートには当たり前だが空室リスクが伴う。スマートデイズの経営破たんのきっかけも、もとをただせば物件入居者が集まらなかったことが原因だ。

 

 総務省が今年4月にまとめた最新の「住宅・土地統計調査」によれば、全国にある空き家の数は846万戸に上り、そのうち50・9%に当たる431万戸が「賃貸用の住宅」だという。

 

 現在の日本は7・4戸に1戸が空き家で、その割合は年々増えつつある。そんな〝空き家時代〞にあって、アパートオーナーは入居者を集め続けていかなければ、有効な相続税対策とはならないということだ。

 

 さらに、そもそもアパート建設が税負担の軽減につながらないというケースもある。例えば昨年制度内容が大きく見直されたばかりの「広大地」の評価ルールでは、三大都市圏なら500㎡以上で一定の要件を満たせば、相続税の評価額を2割軽減できる。しかし土地が余っているからとアパートを建設してしまうと、その部分は貸家建付地として別の評価単位になってしまうため500㎡を割り込み、広大地の評価減が使えなくなる可能性がある。このようなケースで相続税負担を増やしたうえに、賃貸経営のノウハウが必要なアパートを手に入れることが、相続税対策として正解かどうか、よくよく検討する必要があるだろう。

 

 土地の相続税対策を考える際には、これらの評価額減の特例などと合わせて総合的に判断しなければならない。さらに今後も賃貸経営を続けて収益を出していく事業計画が必要なことは言うまでもない。子や孫のためを思って残した不動産が〝負〞動産とならないように、しっかり戦略を練ったうえで不動産対策に乗り出したい。

(2019/07/30更新)