将来性アピールが資金繰りのコツ

金融庁 検査マニュアル廃止


 銀行の貸し渋りや貸しはがしを誘発してきたとの批判が多かった金融庁の「金融検査マニュアル」が、来年3月に廃止されることが決まった。マニュアルでは融資判断の基準として担保や決算書の数字を重視していたが、今後は貸出先のビジネスモデルや成長可能性といった将来の期待値のウエートが高まっていくことになる。融資を受ける際にはこれまでのように会社の実績だけではなく、自社の将来性もうまくアピールしなければ、有利な条件で借りられない時代に突入する。


 金融庁による金融機関の検査態勢が大きく変わりつつある。今年7月には銀行の経営状況のチェックや立ち入り検査をしてきた検査局を廃止して、業務は監督局に引き継がれた。検査を専門に行う部局を廃止した今回の組織再編は、これまでの強力な監視態勢を緩めることにほかならない。また、来年3月には金融機関を検査する際に使われてきた「金融検査マニュアル」を廃止して、銀行の裁量による貸し出しの増加を促す。

 

 金融庁が検査態勢を見直す理由としては、これまでの厳格な監視が銀行独自の判断に基づく貸し出しにストップをかけ、貸し渋りや貸しはがしにつながってきたことが挙げられる。

 

 金融機関への検査機能は、バブル崩壊後に銀行が抱えた多額の不良債権を解消するために強化されてきた。1998年までは大蔵省に検査部門が設けられていたが、賄賂を受けた幹部職員が銀行に情報を漏らすという汚職事件が発覚し、大蔵省への権力集中の見直しと銀行への監視態勢強化のために金融監督庁(金融庁)へ検査機能が引き継がれた。翌99年に検査マニュアルが誕生し、不良債権の処理を断行することとなった。

 

銀行融資で新局面

 しかしこの検査マニュアルは不良債権を減らすことを大目的に据えており、貸し渋りなどの副作用を生むことになった。「資金繰りコンサルタント」の山本孝司中小企業診断士(大阪・阪南市)は「金融庁の考え方に基づくマニュアルに従っていればいいという銀行の横並びの意識が、銀行員を思考停止状態にした。その結果、不良債権を発生させないことだけを意識した融資が増えた」と、銀行の融資先が担保・保証のある会社や信用力の高い会社に偏り、それ以外の企業には融資が行き渡らない状況が続いたと説明する。

 

 実際、「金融検査マニュアル」の冒頭では、「各チェック項目の水準の達成が金融機関にただちに義務付けられるものではない」とはしているものの、検査官が不良債権ありとみなせば銀行は財務改善を迫られるため、ルールに従わざるを得ないのが実態だった。マニュアルではさらに「機械的・画一的な運用に陥らないよう配慮する必要がある」と続けているが、実情は機械的で画一的な融資の環境を作る原因にもなっていた。そこで、バブル崩壊から四半世紀が経って不良債権の処理が進んだこともあり、マニュアルが廃止されることとなった。

 

決算書や担保だけでは不十分

 今後は従前のルールに縛られない融資が増えていくことになるが、全ての企業が恩恵を受けるかといえば、そうではなさそうだ。銀行のスタンスが変化することを踏まえて対策を講じなければ、融資の対象から外されてしまうことにもなる。

 

 金融庁の方針では、財務や担保・保証だけに依存したこれまでの融資からの脱却を図ることとしている。今後の融資にあたっては、会社のビジネスモデルや成長性などの「事業性」の評価に重きを置くことを金融機関に求めている。

 

 事業性の評価は、財務状況や担保の評価と比べて銀行ごとにバラつきが出ると見られる。というのも、どの金融機関でも好業績の企業や資産を多く持つ企業に対して高い評価を与えることはできるが、事業性については普遍的な評価が容易ではないためだ。前述の山本氏は事業性の評価について「銀行の担当者の目利きが重要になるが、金融機関にはそれを担える人材が少ないのが現状」としており、必ずしも自社が正当な評価をされる保証はない。有利な融資を引き出すには、企業側から自社の事業について積極的に銀行へ説明していく姿勢が求められる。

 

 例えば自社が今後力を入れる商品が将来的に安定して売上を確保できることを説明し、銀行を納得させることができれば有利な資金繰りにつながるだろう。業務内容や業務フローを伝えることも不可欠だ。銀行に自社の事業性を伝える際は、口頭で説明するだけではなく、融資承認のための資料として事業内容を記した書類も渡しておきたい。

 

 ビジネスモデルや事業の将来性に自信がある会社であれば、たとえ現在の財務内容が良いとは言えなくても、融資を受けられる可能性が高まる。反対に事業承継で課題があるなど将来性に不安や問題があれば、決算書が良くても有利な融資を引き出せない。数字だけではない部分も含めていかに自社をアピールし、銀行員を説得できるかが今後の資金繰りのカギとなっていく。

(2018/12/03更新)