〝億りびと〟を悩ませる

仮想通貨の確定申告

コインチェック事件の影響は?


 1年でビットコインの価値が20倍ほどになったかと思えば、今年に入ってからは国内の取引所コインチェックから約580億円相当の通貨が流出するなど、最近は仮想通貨に関する話題に事欠かない。事件の影響の大きさは、それだけ仮想通貨が一般の投資家にも普及していることを意味し、仮想通貨取引での所得をはじめて確定申告するという人も多いだろう。税金面でも、株式などの投資に比べて多くの違いがある仮想通貨の確定申告について知っておきたい。


 1月26日の正午ごろ、国内の仮想通貨取引所コインチェックが突然、同取引所で扱う仮想通貨の一つである『NEM』について、入金制限を行うと発表した。それから約一時間後には売買や出金も停止され、通貨所有者としては資産を動かすこともできず不安な時間が続いた。さらにそれから半日がたった23時過ぎになって同社はようやく会見を開き、顧客から預かっていた『NEM』について、不正アクセスによるハッキングを受け約580億円相当が〝盗難〞されたと公表した。詳しい原因の究明は今後なされるとして、顧客の資産を預かるセキュリティー対策に大きな穴があったことは否めない。同社がセキュリティー向上よりもCMや営業に多額の予算を投じていたと指摘する声もあり、仮想通貨市場が急速に拡大するなかで空いた脇腹をまんまと突かれた格好だ。

 

 盗難があったのは『NEM』だけだが、仮想通貨が抱える不正アクセスのリスクを顕在化させたこともあり、ビットコインをはじめとする他の仮想通貨の価格は軒並み下落した。盗難が発覚した26日夜には市場の時価総額が6兆円超急落し、全体の1割が一瞬で失われたほか、その後回復基調にあったビットコインも31日に再び下落。1万ドルを割り込み、年初につけた1万7000ドルから4割価値が減っているという状態だ。

 

5割が税金で持っていかれる!?

 こうした年をまたいでの大幅な価格変動によって、大きな影響を受けるのが確定申告だ。昨年9月に発表された国税庁のタックスアンサーによって、仮想通貨による収益は税法上の雑所得に当たることが示されている。上場株式や投資信託などによる利益が譲渡所得や配当所得などに分類されているのとは異なり、原稿料やネットオークションの収入、またFX(先物取引)などと同じ、「雑多な所得」とされたことになる。

 

 しかし同じ投資による雑所得でも、FXと仮想通貨では大きな違いがある。FXには3年間の損失繰越控除が認められているのに対し、仮想通貨に同様の規定はない。つまり、年をまたいだ損得は、完全に別物扱いとされる。

 

 例えば昨年末にビットコインで稼いだ利益を確定させ、1億円を手にしたとする。それを元手にして別の仮想通貨を購入したが、年が明けてのコインチェック事件による下落などもあり、1億円をきれいさっぱりなくしてしまった――。こうしたケースでは、手元に納税資金がまったくないにもかかわらず、所得税は前年に確定させた利益1億円全額にかかってしまう。値動き幅の大きい仮想通貨では、こうした例え話もあり得ない話ではないだろう。しかも前述のとおり損失繰越できないので、来年また1億円を稼いでも、今年の損失と相殺することはできず、やはり1億円全額に税金が課されてしまうことになる。

 

 さらに、他の所得と切り離して約20%の税率が課されるFXとは異なり、仮想通貨には他の所得と合算した上で所得税の累進税率が適用される。昨年はビットコインの価格が1年間で20倍に高騰したこともあり、「億りびと」などと呼ばれる多数の億万長者が生まれたが、仮想通貨で得た1億円の所得の大部分に課される税率は所得税と住民税を合わせて55%だ。つまり仮に「億りびと」となっても、ほぼ半分は税金で持っていかれてしまい、実質的には〝5千万びと〞となってしまうのだから笑えない。短期間で大きな値上がりを見込めることが仮想通貨の人気の理由だが、税制面では株式投資などに比べて大きなリスクがあることを認識しておきたい。

 

リスク認識したうえで投資を

 なお仮想通貨は上場株式などと異なり「損益通算ができない」と言われるが、これは正確ではない。仮想通貨同士の損益、あるいは他の雑所得との損益の通算は可能で、あくまで他の種類の所得との損益通算ができないというだけだ。ただし前述したように、損失があったとしても次の年には繰り越せない点には注意すべきだろう。

 

 仮想通貨の所得を計算する上で一つ覚えておきたいのは、換金したり他の仮想通貨に換えたり仮想通貨で何かを決済したりと、仮想通貨を〝使った〞時点で初めて所得が発生するということだ。含み益の段階であれば、どれだけ儲けていても課税はされない。もちろん通貨は持つだけでは意味がなく、いつかは利益確定なり決済なりをすることになるが、損失繰越控除ができないなどの特徴を踏まえ、換金化するタイミングを選ぶというのも、税負担を抑える上では重要になりそうだ。

 

 流出した580億円相当の仮想通貨について、コインチェックは1月28日、被害者に対し被害額相当を日本円で補償する方針を発表した。盗難によって受けた被害に対する損害賠償金の性質があるようにも思えるが、日本円で補償された分については「雑所得」として課税されてしまう可能性もゼロではない。国税庁の取り扱いにも未確定な部分が多く、仮想通貨には想定しづらいリスクも多数存在することを認識した上で、投資対象として検討したいところだ。

(2018/03/06更新)