消費税増税まで1年半余

複数税率の導入に備える!

請求書の作成が煩雑に


 2019年10月に予定されている消費税の増税と複数税率の導入まで1年半あまり。まだ時間があるといえばあるが、新税率システムへの改修、現場での複数税率対応の準備、さらに増税を見込んだ経営計画の見直しなどを含めれば、2年足らずの時間はあっという間に経ってしまう。延期を繰り返してきた増税だが今度こそは。実施されるものと覚悟して、事業者は新税率へのぬかりない備えをしておきたい。複数税率対応のポイントを調べてみた。


 ここのところ消費増税を巡る国の動きが活発化している。1月9日には、複数税率対応レジの導入を支援する補助金の申請期限が2019年12月16日となることを経産省が発表した。国税庁も今年に入り、ホームページ上で公表している複数税率に関するQ&Aを改定し、より個別具体的な事例への対応方法を解説している。

 

 昨年末に発表された18年度の国税庁予算案では、「税制改正経費」として前年度比180%の予算が計上され、来年10月に控える消費増税への本格的な準備がいよいよ始まるとの見方もある。複数回にわたって延期を繰り返してきただけに増税時期について疑う声はまだ根強いが、100%の確率ではないとしても、事業者は19年10月に向けて消費増税と複数税率への備えを固める必要がある。

 

2023年からはインボイスが義務化

 まず複数税率に対応する上で事業者が必ず直面するのが、大きく変わる請求書の記載事項だ。増税と同時に「区分記載請求書」方式が始まり、4年後の23年10月からはさらに記載項目が増える「適格請求書(インボイス)」が義務化される。

 

 それぞれを整理すると、現行の請求書に記載が求められる項目は、①請求書を作成した者の氏名、名称、②取引を行った年月日、③取引した資産、役務の内容、④取引した対価の額、⑤請求書を渡す相手の氏名、名称――となっている。

 

 複数税率導入と併せて導入される「区分記載請求書」では、③について、取引した資産が低い方の税率の対象である時にはその旨を明記せねばならなくなり、④については税率ごとの合計対価を記載することが求められる。ただし交付は義務ではなく、不正交付への罰則もない。

 

 政府は19年10月から23年9月までは複数税率制度への〝ならし期間〞として、厳しい締め付けは行わないほか、みなし計算による大雑把な税額計算を認める方針だ。ただし23年10月からは、そうもいかない。複数税率制度の〝本丸〞である「インボイス」方式では、⑥事業者の登録番号(21年10月より申請開始)、⑦税率ごとに区分した税抜価格と消費税額――の記載が求められ、インボイスの交付が義務化される。不正交付などには罰則も設けられ、すべての事業者が対応を求められることになる。

 

 インボイスの導入で最も影響を受けるのが免税事業者だ。仕入税額控除を行えるのは原則的にインボイスに基づいた取引のみとなるが、消費税のかからない免税事業者はインボイスを交付できない。現行制度では免税事業者相手の取引でも税額控除できるが、今後は、少しでも税額控除をしたい事業者が免税事業者とは取引しなくなる可能性がある。

 

 こうした取引排除を防ぐため、政府は免税事業者からの仕入れについても23年からの3年間は8割、その後3年間についても5割の控除を認めるとしている。しかし将来にわたって免税事業者が取引上不利となることは明らかで、免税事業者は今後、課税事業者に転換するのかどうか難しい選択を迫られることになる。

 

取引先の不備には「追記」で対応

 また請求書の様式が大きく変わるため、仮に取引先から発行された請求書が新たな方式にそぐわないものだった場合には、受け取った側が請求書に「追記」を行うことで仕入税額控除ができるようになる。具体的には、新しく追加される「軽減税率対象である旨」と「税率ごとに合計した取引の額」の2点については、受け取った請求書に記載がない場合、それぞれを追記することで事足りるという。もちろん虚偽記載はNGで、追加された2項目以外の、年月日や事業者名については追記による修正が認められないので注意したい。

 

 さらに気を付けたいのが、19年9月から10月へと税率切り替わり日を挟んで請求の締め日がやってくるパターンだ。例えば毎月15日を締め日としているなら、同じ請求書のなかに、増税後の10%と増税前の8%、さらに同じ8%でも増税後の軽減税率という、3種類の税率が混在することになってしまう。

 

 こうしたケースでは、8%と10%それぞれの税率ごとに合計の取引額を請求書へ記載するだけでなく、さらに「9月分8%」と「10月分8%」というように、時期ごとにも記載を分ける必要がある。請求書自体を増税前と増税後の2枚に分けることも有効なようだ。

 

 このように税率の切り替わりに絡む処理は面倒くさいものだが、それを逆に利用するという手も覚えておきたい。請負工事などの取引については、増税後に取引関係が完結するものであっても増税前の税率を適用できることがあり、この「経過期間」を利用することで税負担を大きく減らすことが可能だ。

 

 家を建てるとしたら、増税日である19年10月1日の前、たとえば半年前の19年4月1日に工事の契約などをしておけば、たとえ実際の引き渡し日が10月以降になっても、税率8%を適用できる。請負工事等だけでなく資産の貸付や役務の提供、旅客運賃など10種類の取引にそれぞれ経過期間が定められているので、設備投資などの支出タイミングをうまく合わせることで、大きな節税効果が見込めるだろう。

 

 複数税率への準備をぬかりなく行うことで、損をしないだけでなく、自社に得を生み出すこともできる。残る1年半あまりの期間をうまく使い、万全の対策を講じたい。

(2018/03/05更新)