福島で震度5弱、東日本太平洋沿岸部は津波に注意・警戒

万が一被災したら税制フル活用で早期復旧

覚えておけば役立つ災害税制


 11月22日の早朝、福島県沖の太平洋を震源とする地震が発生。福島県などで最大震度5弱の強い揺れを観測した。気象庁ではこの地震の影響による津波警報を発令。東日本の太平洋沿岸部の広い地域では、多くの人が一時避難した。大震災の悪夢がよぎる大きな地震だったが、今年は熊本大地震をはじめ、日本列島は多くの災害に見舞われた。この夏発生した台風10号は、気象庁が統計を開始した1951年以降で初めて東北地方太平洋側に上陸して猛威を振るうなど各地に甚大な被害をもたらした。9月、10月にも台風の脅威は続き、日本列島に深い爪痕を残している。台風、地震、豪雪などの自然災害が多い〝災害大国ニッポン〞で、経営者は自社や取引先が被災するおそれがあることを踏まえ、災害税制をきちんと押さえておかなければならない。


 自然災害で経営や財産にダメージを受けたときには、その損害を多少なりとも軽減させるために、税制上の特例を利用できる。まず、被災した会社は、税務署の承認を受けることで、消費税の課税方式を自社に有利なものに変更することが可能だ。

 

 消費税の課税方式には、受け取った消費税から支払った消費税を差し引く「原則課税方式」と、受け取った消費税に業種ごとのみなし仕入れ率を掛けて税額を算出する「簡易課税方式」との2種類がある。簡易方式は原則方式と比べて事務処理が圧倒的にシンプルであるため、災害の影響で会計処理事務に支障が出ている会社は、簡易方式を選択するのもひとつの手だ。ただし、災害で使えなくなった事業用資産を大幅に買い替える必要が生じたときは、仕入れ時に支払う消費税額が多額になるため、受け取り消費税から支払い消費税を差し引く原則方式を採用した方が有利になる。自社が採用している課税方式が被災後の会社の状況に即したものであるかをきちんとチェックしなければならない。

 

 また、災害の影響で期限までに申告・納税できないときは、税務署に申請して承認を受けることで、災害後2カ月の範囲内で期限を延長できる。災害で財産に大きなダメージを受けたときには国税が1年間猶予される制度もある。

 

 このほか、直接的な被害を受けていない会社が、被災した取引先への復旧支援をするときの税制上の特例がある。取引先への寄付は通常であれば損金算入が制限されるが、被災した取引先に災害見舞金を支出したときは、被災前の取引関係の維持や回復を目的にしたものに限り、全額を損金の額に算入できる。売掛金や貸付金といった債権を免除するときも同様だ。また、貸付利息を減免したときに、実際に受け取った利息が通常受け取るべき利息より少なくても、差額分が寄付として損金不算入になることはない。さらに、会社が不特定多数の被災者を救援するために、自社製品を被災地に送るときに掛かった費用も損金の額に算入できる。

雑損控除と災害減免法、どちらが最適か?

 個人が住宅や家財に損害を受けたときには、所得税と復興特別所得税を減額できる。所得が500万円以下の人は、災害減免法によって所得税が全額免除される。また、500万円超750万円以下なら2分の1軽減、750万円超1千万円以下なら4分の1軽減となる。仮に所得が600万円で、所得税と復興所得税の合計が30万円なら、納税額の2分の1が軽減されるので納める税金は15万円になる。所得が1千万円超の人は災害減免法を適用できず、また災害で受けた損害金額が住宅や家財の2分の1以上でなければ制度の対象にならない。

 

 もうひとつ、所得税の雑損控除制度を利用すれば、「損害額― 所得の10分の1」と「土砂除去費用などの災害関連支出費用-5万円」のうち、多い金額が所得から控除される。損害額が大きいほど差し引ける金額が高くなる仕組みだ。対象は生活に必要な資産だけで、貴金属、書画、骨董で価額が30万円超のものは含まれない。災害関連支出のうち、土砂除去費用や住宅・家財の原状回復費用などは、災害後1年(大規模災害は3年)の間に支出したものが対象になる。

 

 ただし、災害減免法による措置と所得税法上の雑損控除のどちらか一方しか利用できないので、所得や損害状況を踏まえ、税額を多く減らせる措置をきちんと選択することが大切だ。また、給与、公的年金、報酬から徴収される源泉所得税の徴収猶予や還付を受けられることも覚えておきたい。

非常食の備蓄は購入時に損金処理

 大規模な災害が発生すると、一時的に食糧確保が困難になることがあるため、長期保存できる非常用食品を社員のために備蓄する会社がある。社員全員が数日過ごすための非常食を備蓄することになれば、会社規模によって購入費用として何百万円ものお金が必要になる。大量備蓄した非常食の税務だが、減価償却資産とは判断されず、毎年減価償却する必要はない。会計上は「消耗品」として、備蓄をした時点で事業のために使ったものとして購入時点で損金処理する。なお、消火器のなかの粉末や消化液の取り替えについても、その時点で事業のために使ったとして、取り替えたときに損金処理する。

 

 日本税理士会連合会(神津信一会長)は、大災害が発生してから災害特例法を立法して対応するのではなく、納税者が申告・納税に関する今後の見通しを立てやすくするよう、災害税制に関する基本法を立法化すべきと提言している。災害大国ニッポンの災害税制はまだ不十分な部分も多いようだ。

 

 ただ、現行でも被災からの復旧を後押しする関連税制はいくつかある。税務署への申請期限が過ぎてしまって制度を利用できなくなることがないように、普段から関連制度の概要をきちんと押さえておきたい。

(2016/11/22更新)