タイムリミットまであと1年

タワマン節税ついに規制

2017年度改正で評価ルール見直し


 財産債務調書の導入や国外転出時課税の新設など、富裕層への税制面での締め付けが厳しくなるなか、資産家にとっての有効な節税策がまた一つ規制されそうだ。政府は12月にまとめる2017年度税制改正大綱に、タワーマンションの上層階の固定資産税額の引き上げを盛り込む方針を固めた。20階を超えるマンションの高層階は、固定資産税評価額と実勢価格の開きを利用した〝タワマン節税〞に利用できるとして近年人気を博してきたが、とうとう課税強化の網がかけられることとなった。


 「実際の取引価格を踏まえた固定資産税の按分方法を検討している」

 

 菅義偉官房長官は10月下旬の記者会見で、年末に決定する税制改正大綱に向けた議論の内容をこう説明した。菅氏が言及したのは、具体的には「タワーマンション(タワマン)」と呼ばれる20階以上の高層マンションの分譲区画にかかる固定資産税だ。

 

 マンションの固定資産税は、現在の税法では一度建物全体の税額を決定した後に、それぞれが保有する区画の面積に応じて税額を所有者に按分することになっている。階層という概念はなく、1階であろうと50階であろうと、同じ面積には同じ税額がかかっている。

 

 検討している新たな計算方法は、建物全体の固定資産税は据え置いた上で、「階層」に応じて、高層階ほど重負担に、低層階ほど軽負担にするというものだ。おおよそ20階を境界線とし、それより上の階であれば固定資産税評価額が現在より高くなるという(図1)

 

 具体的な算定方法などは今後詰めるため、どの階層からどの程度税負担が増えるのかは未確定だ。政府は年末までに骨格を固めて税制改正大綱に盛り込み、早ければ再来年、2018年1月1日から新制度を開始する方針だとしている。

評価額と実売価格に大きなギャップ

 菅氏が「実際の取引価格を踏まえる」と言うように、今回の改正の目的は「実売価格と固定資産税評価額のギャップ」の解消にある。固定資産税に階層の概念はないが、実際に販売される時には眺望などの条件が異なるため高層階のほうが高い価格が付けられる。

 

 50階以上あるようなタワーマンションでは、低層階との価格差が1億円以上開くことも珍しくないため、資産価値に差があるのに固定資産税が同一なのは不公平だという声が挙がっているというのが、与党の説明する見直しの理由だ。

 

 だが政府の真の狙いは、固定資産税ではないだろう。その真意は、近年富裕層の間で行われてきた相続税対策の手法である「タワマン節税」の狙い撃ちにある。

 

大流行した〝富裕層〟の相続税対策

 あらためて、大流行したという「タワマン節税」についておさらいしておこう。

 

 不動産を相続財産として評価する際には、固定資産税評価額が算定基礎として用いられる。つまり階数やカド部屋といった要素は考慮されない。先述したように、マンションの分譲区画の固定資産税評価額は階数にかかわらず同一だ。それに対し、実際の取引価格は高層階ほど高くなる傾向がある。タワマン節税はその差を利用して、相続税負担を抑えるスキームだ。

 

 同じマンションのなかで1階住戸の実売価格が5千万円、同じ広さの40階の住戸が1億円だとしても、両者の固定資産税評価額、また相続財産としての評価額は変わらない。仮に相続財産としての評価額がいずれも2千万円とすると、実売価格に対する評価額の割合は1階住戸なら40%、40階住戸なら20%という差が生まれるわけだ。数十階にもなるタワーマンションであれば、低層階と高層階の価格の開きはそれだけ大きなものとなるため、節税効果もその分大きくなる。

 

 このマンションで「タワマン節税」を行おうとすると、まず相続を見越して40階の住戸を1億円で購入しておく。現金のまま持っていれば評価額はそのまま1億円だが、不動産の評価額は固定資産税評価額に基づくため2千万円となり、8千万円を圧縮できることになる。相続税の申告後に未使用のまま売却すれば、多少値落ちしたり、譲渡所得税がかかったりするとはいえ、多額の現金を、相続税をかけずに引き継ぐことができるというわけだ。

 

 この手法を使って多くの富裕層が相続財産を圧縮したことは、データ上にも表れている。国税庁が昨年秋に公表したデータによれば、300件を超えるタワーマンション物件の平均的な財産評価額は、実売価格の3割程度だったという。相続税率は15年1月に改正され、最高税率は6億円以上で55%に引き上げられている。都心一等地のタワーマンションの高層階などは1戸当たり数億円になることも珍しくないため、評価額を半分以下にまで下げられるタワマン節税が相続税対策にもたらした効果の大きさは想像するに余りあるところだ。

相続のタイミングを選ぶことはできない

 だが国税当局も、ただ手をこまねいていたわけではない。昨年秋に国税庁はタワマン節税への監視を強めていく方針を示し、「実質的な租税負担の公平の観点から看過しがたい事態がある場合には、これまでも財産評価基本通達6項を活用してきたところですが、今後も、適正な課税の観点から財産評価基本通達6項の運用を行いたいと考えております」との声明を発表した。相続財産の評価ルールを定めた「財産評価基本通達」の第6項には「通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」とあり、国税当局はこれを根拠にして、タワマン節税に対しては税務調査を行って相続税を追徴課税していく姿勢を示したわけだ。

 

 国税当局が税務調査の面から監視を強めると同時に、固定資産税を所管する総務省でもタワマン節税規制に向けた動きを着々と進めてきた。昨年から有識者会議で固定資産税評価額のルール見直しを議論し、今年の春には「階数に応じて税負担を変える」案を軸に見直しの意向を固めた。

 

 それを受けてか、今年春以降、首都圏のマンションは顕著な需要落ち込みを見せている。不動産経済研究所が発表した今年4〜9月のマンション発売戸数は1万6737戸で前年同期に比べて12・4%減、年度上半期としては1992年以来24年ぶりの低水準となった。特に東京23区では22・3%減と2割以上落ち込み、契約率も8年ぶりに7割を下回った。資材価格の高騰など他の理由もあるものの、タワマン節税規制の動きが需要減に拍車をかけた可能性は高い。今回改めて規制方針が明らかになったことで、今後さらに都心のマンション需要は落ち込んでいくだろう。

 

 政府が打ち出した新たな固定資産税の評価ルールは、「2018年以降に引き渡す新築物件」が対象になると言われている。すでにタワマン節税を実行している物件にさかのぼって課税される可能性はまずないと言っていい。また、すでにタワマン物件を居住などのために購入して保有し続けている人の税負担がただちに変わることもないだろう。ただし将来的に、既存の物件に対しても適用拡大される可能性はゼロではない。

 

 最も影響が大きいのは、言うまでもなくこれからタワマン節税を実行しようと考えていた人だ。現時点での素案通りに新ルールが導入されれば、残された時間はあと1年ほどになる。実行するなら早いうちにと考えたいところだが、タワマン節税はあくまで相続税対策であり、相続の発生タイミングは調整できるものではない。17年12月31日か18年1月1日か、相続発生が1時間違っただけで相続財産の評価額が1億円変わってくるということもあり得るわけだ。タワマン節税を考えているなら、こうしたリスクを踏まえた上で実行するかどうかを慎重に見極めるべきだろう。

 

 もっともタワマン節税が規制されても、相続財産の評価額を抑えられる手法として不動産活用が最大の相続税対策であることに変わりはない。どう財産を引き継ぐのか、メリットとリスクを確認した上で、さまざまな相続対策を検討していきたい。

(2016/11/28更新)