中小企業向けにアレコレ

赤字でも使える税優遇を活用!

申請のタイミングに注意


 中小企業向けの固定資産税の軽減特例が今年7月にスタートし、予想以上に利用を伸ばしている。これまでにあった法人税の減免措置と異なり、赤字企業でも恩恵を受けられるところが人気の秘けつだ。比較的簡易な手続きで自社の税負担を減らせる制度だが、申請のタイミングによっては減税効果が3割以上も減ってしまう可能性があるなど注意点もある。中小企業の大きな味方となってくれそうな新特例について、内容をしっかり把握しておきたい。


 中小企業庁はこのほど、7月1日に申請受付を始めた「経営力向上計画」の認定件数が9月28日時点で1621件となっていることを発表した。計画は、中小企業等経営強化法に基づく固定資産税の特例を適用するために必要なものだ。認定件数のうち製造業が全体の7割を占めるが、医療、卸・小売、建設、不動産業、農林業、民間放送業など認定を受けた業種は多岐にわたる。

 

 特例は、中小企業が新たに取得した機械装置の固定資産税を3年間半額にするというものだ。設備の導入によって生産性が一定以上高くなることや、生産性向上を盛り込んだ3〜5年の中期的な経営計画を策定することなどを要件に、税負担の軽減を認める。

 

 中小企業の税負担を減らす施策としてはこれまで所得拡大促進税制、生産性向上設備投資促進税制、雇用促進税制などがあったが、これらはすべて法人税の軽減措置だった。そのため、日本企業の約7割を占める赤字法人にとっては利用したくてもできないものとなっていた。

 

 その点、固定資産税の軽減措置は赤字企業にも等しく恩恵がある点が異なっている。固定資産税での投資減税措置は史上初めてで、そこには赤字企業にも設備投資に積極的になってもらうことで日本経済全体を活性化したいという政府の狙いがあるようだ。

 

 制度の対象となる機械装置は160万円以上で、生産性が1%以上高まるものだ。中企庁はホームページ上で制度対象となる機械装置の具体例を挙げており、溶接機や産業用ロボットから焼却炉、食器洗浄機まで、業種ごとに幅広い設備で税優遇を受けられることが示されている。注意点として、最終的に適用の可否を判断するのは課税当局のため、具体例に挙げられているからといって100%対象になるとは言えない点があるが、おおむねリストに従った設備は認められる可能性が高いと考えていいだろう。もちろん確認は怠らないようにしたい。

 

紙2枚で固定資産税が半額に

 制度を適用するためには、購入する設備が生産性を向上させるものであることを保証するものとして、業種ごとに定められた工業会の証明書が必要だ。また生産性を高める取り組みとして、設備投資や人材育成、経営手法の改善などを盛り込んだ経営力向上計画を作成し、国の認定を受けなければならない。計画書はペーパー2枚と、この手の申請書類のなかではかなり少ない。とは言え、計画作成の際には税理士など専門家の関与が必須だろう。

 

 具体的な取り組みの内容は業種によってさまざまだが、経産省の定めた業種ごとの指針に沿い、IT化を推し進めたものであることが求められる。中企庁の公表した認定事例では、従来職人に任せていた金属板の表面研磨処理をロボット化し、製品を運搬する台車にビーコンを取り付けて管理システムに紐付けした製造業者や、セルフレジを導入した小売業者などが挙げられている。

 

 経営計画を作成して認定されれば、固定資産税以外にもさまざまな優遇を受けることができる点も覚えておきたい。商工中金による低利融資、中小企業基盤整備機構による債務保証などさまざまな金融支援が受けられるのは中小企業にとって嬉しい点だろう。また生産性向上を要件として最大1千万円を助成する「ものづくり補助金」など、経営計画があれば採択の際に加点されるというものもある。

 

 経営計画を作成することは、それ自体が企業にもたらすメリットも大きい。中企庁が毎年公表する『小規模企業白書』によれば、経営計画を作成し、計画に基づく事業を実施した事業者のうち、5割が新たな取引先や顧客を獲得しており、見込みも含めると97%の事業者が新規取引先や顧客を獲得している。

 

 2ページの簡易な計画書であっても、「自社の事業の現状や将来と向き合う」ということ自体が会社にとってプラスになり得るということだ。メリットは固定資産税の軽減だけにとどまらないことを踏まえ、設備投資を考えている中小企業は積極的に経営計画の作成を検討したい。

 

 制度の利用を考えるに当たって、注意したいのは経営計画認定のタイミングだ。これから設備投資をして軽減特例を使いたいという企業は、原則的に以下のような流れに沿うことになる。①購入したい機械のメーカーを通じて、工業会に対して「証明書」の発行を依頼し、受け取る。②「経営力向上計画」を作成し、先に取得した「証明書」を添付して、自社の業務分野を所管する官庁に提出する。③認定を受けたら、実際にメーカーから機械装置を取得する――という流れだ。すでに取得した設備について申請することもできるが、その場合は取得日から60日以内に計画を提出しなければならないので気を付けたい。

 

 最も注意すべきは、申請から認定が年をまたいでしまうケースだ。同制度で優遇を受けるのは「機械装置を取得した年の翌年から3年間の固定資産税」で、そのためには取得した年のうちに「申請」ではなく「認定」までを受ける必要がある。

 

 今年取得する、あるいはしている機械装置について2017年〜19年の3年間に優遇を受けようとすると、今年12月中に認定まで受けねばならない。もし認定が年をまたいでしまうと、制度が適用されるのは再来年、2018年からの2年間だけになる。減税効果が3分の1減ってしまうわけだ。

 

年末の申請は減税効果が3分の2に?

 中企庁は計画の申請から認定までは「最大30日かかる」と説明している。だが経済産業局が主催した説明会によれば、事業分野が複数の官公庁にわたるケースでは、さらに延びて最長45日かかることもあるようだ。

 

 さらに先述したように、申請時には工業会発行の証明書の添付が求められる。この証明書の取得にかかる期間は数日から最大2カ月とかなり幅があり、もし2カ月かかるのであれば今から動いたとしても年内には間に合わないことになる。証明書の発行にどの程度時間がかかるかは、工業会に問い合わせてしっかり確認しておきたい。

 

 証明書の発行にさほど時間がかからないとしても、今年中に取得したい、あるいはすでに取得した機械装置があって制度を利用したいのであれば、手続きを急がなければならない。

 

 どうしても今年のうちに認定を受けたいという事情がないのであれば、いっそ設備投資自体を来年まで先送りしてしまうのも手だ。同制度は18年までに取得し、認定された固定資産を対象とする時限措置だ。来年認定を受けても18〜20年、再来年認定を受けても19〜21年の3年間の固定資産税について半額の措置を適用できる。

 

 焦る余りにずさんな経営計画を立てたり、申請手続きでミスをしたりするよりも、来年落ち着いて、設備投資プランも踏まえた経営計画策定に取り組んだほうが賢明かもしれない。

(2016/11/29更新)