コロナ禍を乗り切る消費税対策

キャッシュフロー改善


 企業の節税策といえば法人税を対象としたものが多いが、赤字でも納付義務のある消費税の対策こそキャッシュが枯渇するときには最優先で取り組まなければならない課題といえるだろう。国会で成立したばかりの〝コロナ対策税制〞も駆使しつつ、仮決算による納税制度や課税方式の選択の特例などの措置を活用してコロナショックを乗り切りたい。


 新型コロナウイルスの感染拡大の影響で多くの企業がキャッシュフローの悪化に苦しんでいる。東京商工リサーチの調べによると、仕入れや給与を支払うための資金を3カ月後に確保できなくなる可能性があると考えている会社は38・6%にも上った。

 

 現金の確保が喫緊の課題となっている中で、支出を抑えるための税金対策の重要性が増している。特に、売上が減少している時期に大きな効果を上げるのは、黒字であるか否かにかかわらず課税される消費税の対策だ。

 

 政府は新型コロナの影響で経営が悪化した事業者の税負担を軽減するための〝コロナ対策税制〞を4月30日に施行したが、このうち消費税関連では「納税猶予の特例」と「課税事業者・免税事業者の事後選択制度」が盛り込まれている。

 

 納税猶予の特例は、キャッシュフローのさらなる悪化を抑止するため納税の時期を1年後まで先延ばしできる施策だ。通常、納税猶予にあたっては担保の提供と年間1・6%の延滞税が必要となるが、特例では両方とも不要とされている。そのため消費税分の金額の融資を無担保・無利子で受けたのと同じキャッシュフロー改善効果が生じることになる。

 

納税猶予と事後選択制度

 適用の条件は、①収入が前年同期比でおおむね2割以上減っている、②半年間の事業資金を確保できないなど一時の納税が困難と認められる――の2点で、大企業優遇傾向の近年の税制では珍しく中小企業の負担を減らすものと言える。

 

 仮に特例の減収要件を満たせないときは通常の納税猶予を申請すればいい。延滞税と担保は免れないが、1年間税金を納めずに済むためキャッシュフローの改善効果は大きいはずだ。国税当局は新型コロナの感染拡大の影響を踏まえて猶予の申請に柔軟に対応するとしているので、資金繰りが悪化していれば申請を検討する余地はあるだろう。

 

 一方の「課税事業者・免税事業者の事後選択制度」とは、通常であれば事業年度が始まる前に提出しなければならない消費税の課税事業者選択届出について、事業年度終了後の提出を認めるという措置だ。一定期間の収入が前年同期で50%以上減少している事業者が対象で、事業年度が終わってから2カ月以内に届け出れば、免税事業者から課税事業者になることや、逆に課税事業者から免税事業者になることが認められる。そして、本来は一度選択すると2年間は課税事業者を続けなければならないが、翌課税期間で免税事業者に戻ることもできる。

 

 事後選択制度が効果を発揮するのは次の2つのケースが考えられる。ひとつは設備投資を予定していた免税事業者が還付を受けるために課税事業者になったものの、新型コロナの感染拡大に伴う事業計画の変更で設備の購入自体を取りやめ、還付の対象ではなくなったようなケース。免税事業者に戻ることで消費税を支払わずに済む。

 

 もうひとつは、新型コロナの影響で課税売上が激減し、その額を課税仕入れが上回ることとなった免税事業者のケースだ。この場合、課税事業者に変更することで差額分の還付を受けられるようになる。

 

 今回新たに設けられた納税猶予の特例と課税事業者・免税事業者の事後選択制度は、一定割合以上の減収を適用要件としているため、収入の減少をある程度抑止できている事業者は恩恵を受けられない。そのため、キャッシュフローが悪化しているにもかかわらず特例を適用できない事業者は、コロナ対策税制が施行される前から使えた消費税対策を見逃さずに適用するようにしたい。

 

中間申告で仮決算

 さらに、コロナ対策税制の適用要件を満たしていない事業者が利用したい消費税対策が、事業年度開始から半年後に行う仮決算による「中間申告」だ。中間申告は今期の納税予定額を算出してその半分を納めるというもので、通常は前年度の税額の半額を納めることになる。しかし今期に大幅なマイナスが見込まれる事業者は、半年分の実績で仮決算を行い、その結果に基づいた税額で納税することが認められている。

 

 仮決算が赤字ならその時点で納税する必要はない。最終的に確定申告で本来の税額に合わせるのでトータルの税負担は変わらないが、決算の半年後の税負担が減るので、キャッシュフローの改善効果は大きい。ただし、仮と言っても確定申告と同じように決算業務をして確定申告書を作成しなければならないため、税理士に依頼すると通常の顧問料や決算報酬とは別に料金が発生することが多く、その支払いも含めて損得を考える必要がある。

 

 また災害の被害を受けた事業者は、ケースによっては原則課税方式と簡易課税方式の切り替えによって税負担を減らせることがある。

 

 簡易課税方式は、業種に応じた仕入れ率を乗じた額を仕入れ分の消費税として計算できる制度で、原則通りに課税売上から課税仕入を差し引いて計算するより税負担が軽くなることがある。課税方式の選択は通常であれば事業年度が始まる前に行う必要があるが、新型コロナの蔓延を含めた災害の被害を受けた事業者は被害の影響がおさまってから2カ月後までに届け出れば変更が認められる。事業年度の開始前には予期できなかった売上の激減によって現行の課税方式が不利なものとなっている事業者は、課税方式の変更の特例を利用することが必須と言える。

 

 昨年10月の増税で消費税の負担が増大したが、新型コロナの感染拡大によってその重みがさらに増している。あらゆる策を講じて税負担を軽減し、事業継続を図るようにしたい。

(2020年6月29日更新)