補助金・助成金 全部使って脱コロナ!

支援策フル活用


 2020年度第2次補正予算が編成された。既存の雇用調整助成金をさらに拡充することに加えて、雇用調整給付金、特別家賃支援給付金という2つの給付金を新設して、新型コロナウイルスでダメージを受けた中小事業者への支援に当たる。助成金の要件が次々と変わり、数も増えていくなかで、受け取り漏れなく、すべての支援策をフル活用してコロナショックを脱出したい。


 2次補正予算には、中小企業が使える支援策が複数盛り込まれている。なかでも中小経営者にとって影響が大きいのは、雇用調整助成金(雇調金)の1日当たりの上限額の引き上げだ。これまでは従業員1人当たり1日8330円となっていた助成上限が、一気に1万5000円まで引き上げられる。

 

 雇調金は、事業者に対する休業補償を国として行わない以上、それを補う意味での事業支援の柱とされてきた。そのため新型コロナウイルスの流行を受けて、これまでも複数回にわたり、要件の緩和や助成率の引き上げが行われてきた。特に、原則で休業手当の3分の2を助成対象としていたところを5分の4に、そして全従業員の雇用を維持した中小事業者の場合はこれを10分の9に引き上るなど、大胆な拡充を実施してきた。

 

 だがそれでも、利用は伸び悩んだ。その理由はふたつある。ひとつは助成額に従業員1人1日当たり8330円という上限が設けられていたことだ。多くの事業者は助成金だけでは休業手当全額を賄うことができず、新型コロナウイルスによって業績が大きく落ち込むなかでも手当の一部を負担せざるを得なかった。そのため国は、一気に助成上限を1・8倍まで引き上げることで、事業者の制度利用を促すことにした。

 

 そして雇調金の利用が伸び悩んだ理由のもうひとつは、申請のために必要な書類が多く、また相談窓口が混んでいるなど、手続きそのものが煩雑なことだ。そのため国は上限額の引き上げ発表と合わせるように5月20日、雇調金の手続きを簡便化させる取り組みをスタートした。

 

 20日からは、それまで申請は窓口への直接提出か郵送のみだったものを、厚生労働省の専用ホームページからオンライン申請できるようにした。さらに手続き内容についても、休業等計画届の提出が不要となった。これまで、事後提出は認められていたものの、計画の作成は必要とされていたが、計画の作成そのものを省略できるようにした。

 

 また小規模事業者ではそれまで、必要な書類が作成されていないなどの理由から、正確な助成額の算出が難しいという事情があった。そこで、おおむね従業員20人以下の小規模事業者については、「実際に支払った休業手当額×助成率」というシンプルな計算で助成額を算出できるようにした。

 

 それ以外の中小事業者についても、助成額の計算の際に必要となる「平均賃金」と「所定労働日数」の算定方法が簡易化された。平均賃金は「労働保険確定保険料申告書」ではなく源泉所得税の納付書を用い、所定労働日数は休業実施前の任意の1カ月を基に算定できるようにした。

 

 さらに雇調金を補完する制度として、「雇用調整給付金」という新たな助成金が創設された。既存の雇調金では事業者が必要書類を取りまとめて申請するのに対し、新たな給付金では従業員が直接申請し、休業手当に相当する現金を受け取る仕組みとなっている。

 

 前述のとおり、雇調金は事業者負担がゼロにはならないことや手続きが煩雑なことから申請を渋ってきた事業者が少なくない。なかには休業手当を出さず、さらに雇調金も申請しないというケースもあり、その結果、従業員の生活が困窮するという問題が生じていた。そこで新設する雇用調整給付金では、従業員がみずからハローワークで手続きをし、早ければ一週間ほどで給付が受けられる仕組みを作る。給付額の上限は、既存の雇用調整助成金と同額になるという。

 

 雇調金の上限の引き上げ、手続きの簡略化といった措置が講じられても、申請の処理が事業者にとって手間であることに変わりはない。実質的に助成金と給付金の選択適用となれば、事業者負担の少ない給付金に申請がかたよる可能性は否定できない。加藤勝信厚労相はこの点につき記者会見で「勤め先から休業手当を受け取っていない人への措置として運用したい。それぞれの事業者が休業手当を支払い、雇調金を活用することが基本だ」と、安易な〝給付金流れ〞にくぎを刺している。

 

家賃の支払いに給付金

 もうひとつ、2次補正予算のなかで中小経営者にとって影響が大きいのは、「特別家賃支援給付金」の新設だ。この給付金は、新型コロナウイルスの流行によって業績が落ち、テナントやオフィスの家賃支払いが難しくなっている事業者を支援するというものだ。

 

 「前年度の売上と比較し、単月で50%、または3カ月合計で30%以上の売上減」という条件を満たす中小事業者、個人事業主、フリーランスに対して、家賃の3分の2を補助するとしている。上限額は、中小事業者なら月額50万円を6カ月、個人事業主やフリーランスなら月額25万円を6カ月だ。

 

 店舗やオフィスを借りているような、家賃を支払う立場なのであれば、何はなくとも、この給付金を受け取ることを第一に考えたい。事業内容に制限はないので、売上減の条件を満たしているのなら、業種にかかわらず活用を検討するべきだ。トータル300万円分の現金給付は、手元資金に不安がある状況では大きな助けとなるだろう。ただし月額50万円は事業者ごとの上限と考えられるため、複数店舗をテナントで展開しているようなチェーン店オーナーだと〝焼け石に水〞になることもあり得る。

 

 もし、家賃を支払う立場にないか、あるいは売上減の条件を満たしていないというのであれば、家賃を受け取る立場としてもこの給付金を活用したい。不動産経営は、中小経営者のスタンダートな副業でもあるが、新型コロナウイルスの影響によって多くの店子が売上減にさらされるなかで、家賃の減額要請が相次いでいる。

 

 こうした状況には、賃貸オーナーであれば嫌というほど直面しているだろう。大家としては家賃収入の減少か、あるいはこれまで家賃を払い続けてきた優良店子の退去かの二択を迫られているはずだ。そこでこの給付金があれば、店子は家賃を払い続けることができ、オーナーとしては家賃収入を保ち続けることが可能となる。

 

 また家賃補助としては、従来からある「住宅確保給付金」も押さえておきたい。賃貸住宅の家賃支払いが難しい店子に一定額を補助するというもので、今回のコロナ禍を受けて、4月から要件が緩和されて使いやすくなっている。給付金は返す必要がないので、店子が要件を満たしているならば使わない手はない。

 

持続化給付金 収入区分に注意

 すでに打ち出されている支援策で、中小事業者が必ず押さえておきたいのは、やはり持続化給付金だ。一定の収入減少などの要件を満たすことで、中小であれば最大200万円を受け取ることができるが、この給付金では事業収入と雑収入の区分に気を付けたい。

 

 持続化給付金の申請にあたって、収入減の要件を満たしているかどうかを判定する際に用いるのは、あくまで決算書に「売上高」として記載されるものに限られる。つまり有価証券の売却益や土地の譲渡収入といった収入は含まれない。しかし個人事業主では、「売上高」に加えて、家事消費や雑収入を計算に含む必要がある。この違いを認識しておかないと、本来受け取れるはずの給付金が受け取れないということにもなりかねないので、念入りにチェックしておきたいポイントだ。

 

 また給付金ではないが、実質的に現時点でのキャッシュフローをまとめて改善できる方法として、前年比で20%収入が減少していれば利用できる納税猶予の特例がある。本来なら納税の猶予には延滞金や利子が発生し、猶予額によっては担保を求められることもあるが、今回の新型コロナウイルスの流行を受けた猶予の特例であれば、利子も担保も必要ない。しかも特例の対象は、国税、地方税にかかわらずほぼ全税目が対象となる。黒字のケースのみ課される法人税とは異なり、消費税、固定資産税、自動車税などは赤字でも納税義務が生じる。忘れずに猶予特例を利用して、現在の苦境を乗り切る一助としたい。あわせて、前年に法人税を多く納めているのならば、繰戻還付の特例も忘れずに活用したいところだ。

 

 税の観点からもう一つ覚えておきたいのは、補助金や助成金は、種類によって税務上の取り扱いが異なるということだ。税法では、補助金や助成金は原則、収入として税が課されると規定されている。しかし今回は緊急事態ということで、一部の給付金については非課税の措置が講じられている。具体的には、1人10万円の特別定額給付金、子育て世帯への臨時特別給付金などが非課税だ。その一方、雇用調整助成金、持続化給付金、各自治体から受け取る休業協力金などは、益金として法人税や所得税を課されてしまう。

 

 2次補正予算で新設された「雇用調整給付金」や「特別家賃支援給付金」が課税・非課税どちらの扱いになるのか、顧問税理士とよく相談したうえで、間違いのない税務処理をしたい。徹底した外出自粛の効果もあって、全国の感染者数は減少しつつある。しかし今後、第2波、第3波の感染拡大が起きる可能性は十分にある。そうでなくても、人と人との接触を可能なかぎり減らす今後の生活では、たとえ全国で緊急事態宣言が解除されたとしても、元通りの日常がすぐに戻ることはない。中小事業者としては、補助金や助成金をフル活用するとともに、今後打ち出されるであろう追加の支援策にも注目していきたい。

(2020/06/30更新)