コロナで変わる信用調査

経営者の〝説明力〟を重視


 調査会社が実施する企業信用調査で、調査を受ける企業の経営者のコメントが評価に与える影響が大きくなっている。従来は財務内容の確認が最優先され、決算書の開示程度で終わる調査が多かった。しかし最近は、新型コロナウイルスの影響について、経営者の見解が調査で深く掘り下げられるようになっている。経営者自らが会社をどのように動かしていくのかをアピールする〝説明力〟の重要性がこれまで以上に増していきそうだ。


 ある保証会社の幹部は、「売掛金の現金化を保証するファクタリングの申し込みが多くなっているが、信用調査の結果次第では引き受けを断るケースが増えている」と語る。新型コロナの影響は長期化しており、新規取引に慎重になる企業が目立つ。そうしたなか、与信管理の一環として活用される企業の信用調査が重要度を増している。

 

 信用調査は、主に企業間取引の与信管理を目的として利用されている。大手企業が下請企業との取引継続について可否判断する際の社内稟議資料として用いたり、金融機関が融資審査の際に情報収集手段のひとつとして活用したりするものだ。

 

 信用調査会社に調査依頼が入ると、まずは商業登記や決算公告といった対象企業の公開情報が取得され、次に調査先の経営者に対して面談が申し込まれる。調査先の企業に依頼者名が明かされることはないが、信販会社や銀行などの金融機関のほか、取引継続を検討している既存の得意先や、新規取引先を探して情報収集している企業である場合が多い。

 

 面談は原則として調査を受ける企業の事務所で実施され、調査内容は財務に関することを中心に、ヒト・モノ・カネの経営全般に及ぶ。最終的には数十ページにわたる調査レポートが作成されて依頼者に納品される。

 

経営者の見解が問われる

 従来は決算書に基づく定型的な面談が主流だったが、ある信用調査会社の幹部は「『新型コロナの影響について、調査先企業の経営者の見解を聞きたい』と注文をつけられた調査依頼が急増した」と話す。

 

 経営者の見解を求める依頼が増えているのは、「経営者が自社のリスクや回復の見通しを立てていない会社ほど、与信面で注意すべきと依頼者が判断しているから」(信用調査会社の幹部)だ。

 

 依頼者の関心が、経営者の現状分析や今後の方針にまで広がっている。そのため、業績や資金現況が優秀であっても油断は禁物だ。これからは面談で経営者の見解が問われるのが当然のこととして、対策を講じる必要がある。

 

 ここで信用調査会社が調査依頼元の企業などに提出する調査報告書(レポート)の中身について確認しておく。目玉とされているのは、取引の安全性を示すために調査会社が独自に算出した「評点」と呼ばれる指標だ。

 

 例えば、帝国データバンク(TDB)の信用調査報告書では100点満点で評点が算出され、51点以上が倒産の危険性が低い安全な取引先とみなされている。評点は、調査員が面談や周辺調査を通じて得た企業データをもとに、「業歴」「資本構成」「規模」「損益」「資金現況」「経営者」「企業活力」といった7つの観点から算出される。

 

 決算書などを基にデータが入力される他の項目と異なり、面談の内容や結果が大きく影響するのが「経営者」と「企業活力」の2つだ。

 

 一般に、「経営者」についての判断材料には30弱の項目があり、面談を通じてタイプ別に分類される。特に注意したいのが「計数面不得手」というタイプだ。売上や利益などの重要な経営指標に弱いと判断され、データ上最も倒産しやすい傾向にあると警戒されている。

 

 次に用心したいのが「豪放磊落」なタイプで、こちらは面談に際して大雑把な回答しか得られない場合などに、経営に対する細やかさが欠如しているとみなされる。いずれも面談時に自社の財務状況や経営方針について具体的な回答が得られないことが問題視され、評点が下げられる。さらに報告書の文面にも、こうした傾向がにおわされることになる。

 

 一方、「企業活力」は経営者との面談内容だけでなく、社内の雰囲気も判断材料にされる。例えば、社員の服装が乱れていたり、窓口担当者が頻繁に代わったりしていると、業績不振などによって社員のモチベーションが下がっているのではないかと調査員に疑われる。

 

 「さほど影響はないが、先行きは見えない」——。とある社長が新型コロナの影響度合いについて問われたとき、そうこぼした。一見もっともらしい回答だが、調査員の評価はマイナスに振れた。新型コロナのリスクや業績の回復につながる手掛かりについて見通しを立てていない会社として、与信面に注意を要すると判断されてしまったのだ。

 

準備が肝要

 TDBの調査レポートの場合、全体の評点のうち主に面談等を通じて判断される「経営者」「企業活力」の占める割合は100点満点中34点で、全体の3分の1にとどまる。また、「経営者」の項目も、業界経験年数などから定量的に判断される部分が少なくない。

 

 とはいえ、TDBの調査レポートでは、経営者へのヒアリングをもとに調査員が記入する内容が、依頼元企業に強い印象を与える。

 

 調査員が目を光らせている重点項目などについては、TDBがウェブ上で公開している「危ない会社のチェックリスト」からもある程度は確認できる。警戒される経営者の傾向や、財務や資金繰りの良否を判断するポイントなども挙げられているので、調査を受ける前の参考資料として活用できるだろう。

 

 当然ながら、調査を受けることは義務ではない。ただ、情報を開示したくないと面談を断っても、取引先などから情報は収集され、依頼者に報告されることに変わりはない。この場合、経営者の言い分が反映されないまま、「情報開示に非協力的」というニュアンスで作成された報告書が届けられることになる。

 

 信用調査は、銀行や取引先など経営上重要な相手が依頼者である可能性が高い。財務状況や経営方針などを正確に伝えられるよう準備して、万全な状態で臨むことが肝要だ。

(2021/03/03更新)