コロナ不況を乗り切る

融資・貸付制度や助成金などをフル活用


 中小事業者にとって、未曾有の経営危機といっていい。アベノミクスの息切れ感がただようなかで昨年10月に消費税が増税され、売り上げが落ちたところに、極めつけが新型コロナウイルスの流行だ。インバウンド需要が業績に直結する観光産業だけでなく、中国を取引先としていたり、元請企業が中国に生産拠点を置いたりしている会社にとっても今回のコロナウイルスは致命傷になり得る。国が緊急対策として開放した5000億円の融資枠をはじめ、ありとあらゆる支援策や補助制度を活用して難局を乗り切りたい。


 政府は2月中旬の段階で、国内外で流行する新型コロナウイルスへの緊急対応策として、中国からの帰国者の支援、国内感染対策の強化、国際連携の緊密化などの方策をまとめた。中小企業対策としては、影響を受ける産業を支援するため、観光事業者などへの5000億円の緊急融資枠を開放することを決めた。準備のできたものから、順次実施していくという。

 

 国は緊急融資の対象として観光事業者を挙げたが、コロナウイルス流行の影響を受けるのは、観光業者だけにとどまらない。中国全土に拠点を進出させている日本企業は約1900あり、拠点を置かずとも製品などを輸入する企業数は約2万にも上る。近年では国内展開に伸び悩んだ中小企業が中国に販路を求めるケースも枚挙にいとまがない。

 

 さらに自社が直接中国と取引をしていなくても、主要取引先である大企業が中国に生産拠点を置いている例も多い。すでにトヨタ自動車や任天堂が中国での部品生産の遅れを公表しているほか、日産自動車では部品生産の遅れの余波を受けて、国内の一部工場についても稼働を止めている。

 

 中国に拠点を置く大企業を取引先とする下請け業者にとって、これらの操業中止がどれだけ長引くかは死活問題だ。国内だけを見ても、すでに多くの商業イベントが中止され、開催されるにしても規模縮小を余儀なくされ、その経済的損失は計り知れない。

 

感染対策、雇用調整助成金、返済計画見直し…

 そして何より怖いのは、今後コロナウイルスの感染がさらに拡大する可能性があるということだ。政府の専門家会議は2月下旬段階で、コロナウイルスの状況について「現在は国内発生の早期段階」として、「今後は国内での感染状況がさらに進行していく」との予測で一致した。

 

 経済へのマイナス影響は長引くどころか今後更に拡大する恐れもあり、中小企業は終息の時期がまったく見えないなかで、手探りのコロナ対策を続けていかざるを得ないわけだ。

 

 運良く自社の事業がコロナウイルスの流行と直接関係のないものであれば、当面の対策は事業継続、つまり自身や従業員がコロナウイルスに感染しないための予防が重要となる。手洗いやうがいの励行といった基本的な対策が重要なのはもちろんのこと、現在の状況に至っては、会社として時差出勤や在宅勤務を命じることも積極的に検討したい。満員の通勤電車を避けられることは、それだけで大きな感染対策となる。

 

 コロナウイルスによって業績に影響を受けている会社でも、資金繰りに困らないよう、可能な限り事業を継続するのが最優先事項だ。とはいえ取引先の工場が止まっていて仕事がないのに従業員だけ出社させていては意味がない。

 

 そうした際には「雇用調整助成金」が使える。同助成金には複数の種類があるが、そのなかには経営上の理由により一時的に事業を縮小・休業した場合、従業員に支払う休業手当の3分の2が支給される「休業型」の助成金がある。本来なら助成の要件として、前年に比べて3カ月単位で売上が減少していることが求められるが、この比較要件が「直近1カ月」に緩和され使い勝手が良くなっている。

 

 雇用調整助成金などで社内の支出を抑えられたら、次に考えるのは支払いの節減だ。自社の資金繰りに不安があるなら、まず検討すべきは現在の融資返済計画の見直しだろう。金融庁は金融機関に対して、コロナ流行で経営に影響を受けた企業への新規融資や、貸付条件の変更などに適切に応じるよう要請した。強制力を伴うものではないが、少なくとも多くの金融機関がいつもより柔軟に対応してくれる可能性は高い。

 

セーフティネット保証も

 経済産業省も、様々な公的融資制度の条件緩和などを打ち出している。災害などにより業績が悪化した企業に保証を提供する「セーフティネット保証」で、最大2・8億円まで100%の保証枠を提供するほか、低金利で7・2億円まで融資する「セーフティネット貸付」も要件を緩和した上で実施する。また「衛生環境激変対策特別貸付」でも、最大1千万円(旅館業は3千万円)を融資する。これらの緊急対策を使わなくても、すでに経営セーフティ共済や小規模企業共済に加入しているなら、解約手当金や掛け金の範囲内で融資を受けることもできる。

 

 経産省は現在、中小団体、支援機関、政府系金融機関など全国の1050拠点に窓口を設けて、経営相談を受け付けている。どの制度を利用すべきか迷うなら、積極的に相談していきたい。

 

 昨年10月〜12月期の実質国内総生産(GDP)は年率換算でマイナス7・1%という恐るべき数字を示した。消費税増税の影響が大きいと見られるが、今後はさらにコロナウイルスの流行によるマイナスがのしかかってくることとなる。このリーマンショック以来ともいうべき未曾有の経営危機に対して、ありとあらゆる手を使って立ち向かっていかなければならない。

(2020/04/01更新)