コロナ破綻を防ぐ融資交渉

そのイロハを再確認


 いまだ終わりの見えない新型コロナウイルスの感染拡大を受け、経営にダメージを受けた中小事業者の運転資金の枯渇が現実味を帯びてきつつある。政府や金融庁は金融機関に対して柔軟に融資申し込みに応じるよう呼び掛けているが、だからといって無条件でまとまった運転資金を貸してくれるほど銀行は甘くはない。後がない状況だからこそ、融資を受けるために重要なポイントを再確認し、確実な融資決定と事業継続につなげたい。


 新型コロナウイルスの流行を受けて、金融庁は全国の金融機関に対して中小企業への配慮要請を行った。コロナ流行でインバウンド需要を失った観光事業者だけでなく、国内の商業イベントの中止などによって多くの中小企業の売上が落ち込み、今後は深刻な資金繰り危機に陥ることを予測しての要請だ。

 

 融資申し込みや返済条件変更の申し出があった場合には適切な対応を取ることに加え、「きめ細やかな事業者支援のため、金融機関が事業者を訪問するなど、丁寧かつ親身になって経営相談に乗る」ように求める踏み込んだ内容となっている。経済産業省も、商工組合中央金庫や日本政策金融公庫などの政府系金融機関に対して同様の配慮を求める要請を行った。

 

 しかし、だからといって銀行が無条件で「とりあえず3千万円ほど」などと貸してくれるわけでは、当然ない。いつもより審査に時間をかけず、低利子で貸してくれるかもしれないが、現状の分析と今後の予測といった客観的データ、根拠のある返済計画が求められることに変わりはない。むしろ運転資金の枯渇が現実的に近づく今だからこそ、いつも以上に確実に融資を受けられるような準備をして、融資交渉に臨みたい。

 

「嘘は割に合わない」

 もっとも現在のような非常時でも平時でも、融資を受けるために必要な準備は基本的には変わらない。ただし前提として押さえておきたいのは、「嘘は割に合わない」ということだ。確かに経営状態が苦しい時には返済のめども立てられないため、業績を良く見せてしまう。つまり粉飾決算に手を出したくなるかもしれない。

 

 しかし会社の業績は、当たり前の話だが、前期から今期、今期から来期へとつながっているものだ。嘘を一度ついてしまうと、来期はその嘘を隠すために別の嘘をつかなければならず、繰り返せば小さい嘘が会社を苦しめる大きな嘘に育ってしまう。そして粉飾がバレた時には刑事罰や損害賠償だけでなく、取引先が離れていき、銀行の信用を失う。粉飾して当座の運転資金をスムーズに借りられたとしても、将来自分の首を絞めることになるものと重々認識し、安易に嘘をつかないようにしたい。

 

 返済についても、融資を受けたいがために〝背伸び〞をした計画を立ててもしかたがない。あとで過大な返済額に苦しまないためにも、地に足の着いた返済計画を提示すべきだろう。

 

 たとえ最近の業績が悪く、またコロナ流行によって当座の資金繰りすら厳しいとしても、融資を受けられないわけではない。むしろ国から金融機関に要請が出ていることをプラスと受け止めたいところだ。重要なのは、現状の財務データとしっかり向き合い、経営者自身が融資の必要性を正確に認識することだろう。

 

 例えば融資申し込みの場面でも、「だいたい2千万円くらいあれば」と大ざっぱな数字だけを示しても、金融機関が首を縦に振らないことは想像に難くない。コロナウイルスの感染拡大という先が見えない状況のなかでも、「現在、中国に生産拠点を置く元請との取引が停止していて、1カ月の営業利益がこれだけ減っています。すると運転資金がこれだけ足りません。現在の状況が改善して以前の状態に戻るには少なく見積もっても半年はかかるでしょうから、2千万円必要になります」とでも説明できれば、銀行にとってもお金を貸しやすい相手に映ることは確実だ。

 

 必要な融資金額の根拠を説明できるということは、経営者が現状把握と問題把握をしていて、改善策も立てられるということになる。そのため、コロナの流行によってこれだけ業績が落ちているという客観的なデータは最低限用意しておきたい。

 

顧問税理士が同席

 融資を受けやすくするために、金融機関との面談の場に顧問税理士を同席させるというのも良い手だろう。金融機関にとって、税理士が内容をチェックしている財務データは信頼性が高く、融資判断にプラスに働きやすい。もちろん、だからといって説明を全て税理士任せにするのはNGで、前述したように経営者自身が現状を認識し、融資を受けて経営を立て直していく意欲と計画があることを示さなければ金融機関はお金を貸してくれない。

 

 政府はこのほど、コロナウイルスによって経営に甚大な影響を受けた中小企業に対して、5千億円の緊急融資・保証枠を開放した。さらに信用保証協会が中小企業の融資を保証する「セーフティーネット保証」制度について、宿泊業者に加え観光バス業者なども対象とする方針を発表した。自治体レベルでも、新潟県が限度額3千万円の緊急融資制度を設けたほか、兵庫県も既存の融資制度の内容を拡充するなど、独自の中小企業救済に向けた取り組みを始めているところもある。

 

 コロナウイルスの流行は、過去にも例のない経済危機に発展しようとしている。あらゆる支援制度や融資を活用して、この難局を乗り切る一助としたい。

(2020/04/02更新)