【犠牲なき献身】(2021年1月号)


政府は、新型コロナウイルスに対応する医療機関に派遣された医師や看護師への支援額を倍増する。「医師は1時間約1万5000円、看護師は1時間約5500円を補助する」と、新型コロナ対策本部の会合で首相が表明した。都道府県が指定する重点医療機関に派遣されたケースが対象となる▼世界保健機関(WHO)は2019年5月、国際看護師協会からの提案を採択し、フローレンス・ナイチンゲールの生誕200年にあたる2020年を「国際看護師・助産師年」と定めた。その記念の年に新型コロナが全世界を襲った▼ナイチンゲールは「犠牲なき献身こそ真の奉仕」と説き、ボランティアによって常時組織される看護団体の設立には断固として反対。「看護する人の自己犠牲のみに頼る活動は決して長続きしない」と看破した。そして「看護する人の奉仕精神にも頼るが、経済的援助なしにはそれも無力である」と現実を語っている▼WHOでは、高齢者や母子のケアに欠かせない看護師・助産師を2030年までに9百万人増やす目標を掲げている。看護職員が充足するのは結構だが、問題はその待遇や労働環境だ▼コロナに立ち向かう医療従事者を支えるために税金は正しく使われているのだろうか。もはや「感謝」だけではなにも改善しない。