【ドクターコール】(2016年9月号)


猛暑が過ぎると、「学会シーズン」ともいえる秋がやってくる。国内・海外の学会へ参加するため、飛行機に乗る機会も増えることだろう▼飛行時間の短い国内線ならばまだしも、国際線でのフライト中に「ドクターコール」を受けた先生はたいへんだ▼「お客様の中にお医者さんはいらっしゃいませんか?」というアレ。機内全体にアナウンスされたり、客室乗務員が座席を回って聞きに来たりする。この「ドクターコール」に対して即座に名乗り出る先生は、じつは意外と少ないらしい▼理由は簡単。不調を訴える乗客が、なにか致命的な症状だった場合、機内に用意されている「救急バッグ」の中身程度の貧弱な薬剤と器具では、とうてい治せないケースがほとんどだからだ。医師としての使命感から手を挙げても、できることはごく限られている。そんな状況にもかかわらず治療にあたり、万が一、思わしくない結果に終わったとしたら、訴えられてしまうリスクもゼロではない▼経験豊富なベテランの看護師が、たまたま同乗していた、などという幸運にでも恵まれない限り、ドクターはたったひとりで治療にあたることになる▼航空各社には、医師による機内での治療行為が、せめて完全免責となる損害賠償責任保険を用意するよう求めていきたい。