【図に乗るな】 (2016年11月号)


「あまり図に乗るな」と言いたい。衆院TPP特別委理事の自民党議員が、TPP関連法案に関し「強行採決という形で実現するよう頑張らせていただく」と発言。すぐさま理事を辞任した▼この発言は審議に入る前の段階で飛び出したもの。まさに問答無用の姿勢。特別委での審議など、はじめから〝儀式〞程度にしか思っていなかったのだろう。政治家は言葉が命だとされるが、審議前から「強行採決」を目指すというのでは、その存在をも否定することになる。図に乗るというよりも、与党の議席の「数」に乗った発言だ▼カントも、権力者や政治家の図に乗った姿勢には、我慢がならなかったようだ。その著書『永遠平和のために』で、「軍隊を、共通の敵でもない別の国を攻撃するために他の国に貸すことなどはあってはならない」と書いた。出版されたのは220年以上も前。欧州はまさに「戦争の時代」。大哲学者も黙ってはいられなかったのだろう▼戦争状態とは「武力によって正義を主張するという非常事態」と言い切る。戦争は仕掛ける側が常に「正義」を持ち出して始まる。本質を突いた警句だ▼権力者や政治家については「生来そなわった戦争好き」と断じ、揚げ句に「過ちを犯して国民を絶望のふちに追いやっても責任は転嫁する」。繰り返すが「あまり図に乗るな」と言いたい。