【10年】 (2016年10月号)


2006年10月、中国の胡錦濤国家主席と北京で、韓国の廬武鉉大統領とソウルでそれぞれ会談したのは、総理に就任して間もない安倍晋三首相だった。10年前のことだ▼就任表明では「美しい国」というテーマを掲げ、「戦後レジームからの脱却」「教育バウチャー制度の導入」「ホワイトカラーエグゼンプション」などのカタカナ語を多く用いた。いまも「アベノミクス」というカタカナ造語を駆使している首相らしいといえる。当時の中韓訪問は、小泉前首相の靖国神社参拝問題などをめぐって冷却化していた両国との関係改善を狙ったものだった▼この年、北朝鮮が核実験を実施。国連では制裁決議が可決され、日本でも経済制裁措置がとられた――。と、ここまで書いて、当時の状況と現在のそれとが、ほとんど変わっていないことに驚く。近隣諸国との関係はこの10年間、改善も進展もせずに、悪化の一途を辿ってきたのではないか▼前回の安倍政権は07年夏の参院選での敗北が響いて終焉を迎えたが、今回は大勝して迎える秋だ。自民党内では早くも2年先の総裁任期延長論も浮上している▼政界は「一寸先は闇」と言うではないか。そしてなにより、権力は長く続けば続くほど腐敗する。これは世の習いだ。10年前から改善されていない隣国関係をそのままに、延長論でもあるまい。