【〝十〟】 (2020年6月号)


延命の効があり、旅の食となる。寒さを凌げ、持参に便利。憂いを忘れさせ、位なくして貴人と交われる。労苦を癒し、万人と和合できて、独居の友ともなる。さらには百薬の長である――「酒に十の徳あり」という。だからというわけではないが、ついつい飲み過ぎる▼しかし何事も過ぎるのは失敗のもと。「十分はこぼれる」のだから、欲張って杯を満たしてはいけない。過度の飲酒が肝硬変や肝臓がんの原因となるのは「十目の視る所、十手の指す所」だ▼お酒がもとでトラブルになることも珍しくないが、たとえ酒の勢いであっても乱暴は御法度。「手出し十層倍」というのだから、最初に手を出した側に十倍の罪がある▼酔っていたから、などという言い訳は通用しない。いくら後悔しても「十日の菊に六日の菖蒲」で、なんの役にも立たない▼飲酒運転による重大事故も後を絶たない。「一を聞いて十を知る」のなら〝飲んだら乗るな〞の一言で十分なはずだが、「十年一日の如し」でなかなか改善しない▼さて、本紙はおかげさまで「創刊十周年」。小さな話題も大きな問題も、決して「十把一絡げ」にすることなく発信してきた。これからも「十のことは十に言え」の初心を忘れずに、どんなテーマでも過不足なく、正確に順序立てて、分かりやすく、理解が深まる言葉で伝えていくことに、十全を尽くしたい。