【二刀流どころじゃない】(2015年11月号)


一人で何人分もの働きをすることを「八面六臂」という。営業、経理、税務と、なにからなにまで自分が責任を持たなければならない中小企業の社長さんは、まさに八面六臂の大活躍だ。プロ野球では「二刀流」が話題だが、経営の最前線で陣頭指揮を執る社長さんの役割は投・打の2役どころではない▼「面」は顔、「臂」は肘を指すという。もともとは阿修羅像の「三面六臂」からきているそうだ。優秀な社員、成績上位の営業マンには、社長さんとしても「いま以上」の活躍を期待しがちだから、ついつい「あれもこれも」と役割を増やしてしまう。〝できる人材〟は取り扱う商品アイテム数が増え、多くの顧客を担当し、営業エリアが拡大するのだから、結果として〝阿修羅の形相〟で奮闘することになる▼社長さんは「自分がやってきたこと」なので、「誰にでもできるはず」と考える。「私にできて君にできないはずはない」などという激励の言葉もよく耳にする。これで奮起を促せればいいが、過度の期待は社員のモチベーションを下げてしまう恐れもある。二刀流ならぬ、もろ刃の剣になってしまっては逆効果だ▼「面」が顔のことなら、「三面鏡」は機能的にも文字通りの道具。「鏡よ鏡。一番美しいのはだあれ」という問いに「それは白雪姫です」と正直に答える鏡を、過度の期待で割らないようにしたい。