【レッドテープ】 (2017年5月号)


「杓子定規なお役所仕事」という意味を持つ英語の表現に「レッドテープ」という言葉がある。英国では昔、公文書を赤いひもで綴じていたことが言葉の由来らしい▼小学校で使う「道徳」の教科書が文科省の検定を受けて、散歩の途中に立ち寄る店を「パン屋」から「和菓子屋」に修正した。「わが国や郷土の文化と生活に親しみ、愛着を持つ」という学習指導要領に沿っていないという意見に、出版社が従ったためだ。文科省のレッドテープもひどいが、それに従う教科書会社もどうかと思う▼公園を和楽器店に差し替えた教科書もあったというから驚きだ。アスレチック遊具で遊ぶ描写がまずいと判断したらしい。小学生の身近に、琴や三味線を扱う店がどれほどあるというのか▼教科書会社にしてみれば、検定に合格するのなら、どちらでも構わないのかもしれない。下手に抵抗して不合格となれば、経営危機に直結する可能性もある▼このままだと、クラブ活動を教科書で取り上げる際に、フェンシング部は剣道部へ、レスリング部は柔道部や相撲部へと自主的に修正されかねない▼権力を持つ誰かの意向を過剰に、そして真剣に忖度するようになると、滑稽な結果を招く。恐ろしいのは、民間の仕事ぶりまでもがレッドテープ化することだ。カレー店はカレー店のままでいい。和食屋になる必要はない。