【「しかない」は禁物】(2015年9月号)


47・7%の企業が創業時と現在とでは「本業」が変わっていると回答したという。帝国データバンクの調べ▼『社長のミカタ』の人気コーナー「社名の由来」でも取り上げたことがあるDHC。今日では化粧品・サプリメント製造販売の大手として知られる同社だが、旧社名の「大学翻訳センター」が示すとおり、もともとは大学の研究室を相手にした洋書の翻訳委託業務を本業としていた▼富士フイルムが本業としていた写真フィルム部門の売上高は、いまや全体の5%にも満たないという。平成24年には映画上映用ポジフィルム・撮影用カラーネガフィルムの生産中止を発表。その一方で、医療分野や化粧品事業への本格参入を開始している。TDKも本業が様変わりした企業のひとつ。磁気テープを主力とした記録メディアメーカーのイメージが強いがその事業部門はすでに他社へ譲渡している▼創業時からの本業、代々続く家業を守り、継続発展させていく姿勢が経営者には必要。しかし、それに固執するあまり「本業しかない」と思い込むのは危険だ▼政治家も同じ。「この道しかない」「私は総理大臣だから正しい」と言い切る首相は、まさに牽強付会。祖父の代から続く「家業」に異常なまでの執念を燃やしているとしか思えない。経営も政治もトップの判断次第。選択肢が「これしかない」という判断は禁物だろう。