誰だって人に見られたくない秘密のひとつやふたつはあるだろう。当然、普段は上手に隠しているだろうが、自分に万が一のことがあったとき、遺された家族がそれを見つけてしまう可能性は十分にある。どれほど愛している家族とはいえ、いや愛する家族に対してだからこそ、「死んでも見せたくない」というものはあるはずだ。パソコン内のデータ、内緒に保管していた古い写真や手紙、SNSでの書き込み等々、死後も「素敵なお父さん」のイメージを保つため、生前にできる〝裏の対策〞を考えてみた。
「遺すべき財産」のための生前対策を〝表の対策〞とするならば、自分の死とともにこの世から消えてなくなってほしい「遺したくない財産」の生前対策は〝裏の対策〞と言えるだろう。ポックリいけばまだしも、意識はあるのに寝たきりになってしまったら、自分の部屋やパソコン内の〝秘密〞が気になって仕方がないだろう。
都内で出版業を営むAさんは、家族が「遺すべき財産」については遺言書を残して段取りをつけているものの、「娘にだけは見られたくないモノ」の扱いが悩みの種になっている。
まずはパソコンに保存された画像や動画の類だ。夜の遊びが派手で若い頃から数々の浮名を流してきたAさんは、女性たちとの多くの〝思い出〞の画像を自宅のパソコン内に保存してきた。Aさんに限らず、パソコン内に秘密のデータが隠してあるという人は少なくないはずだ。
そこで、死後のパソコン対策として考えたいのが「終活ソフト」の導入だ。本来は、遺された家族にとって重要なデータがパソコンに残っているのに、パスワードが不明で開封できないという事態を避けるため、あらかじめ設定した一定期間にログインがないと自動的にログイン状態にするというソフトだ。
このソフトを、本来とは逆の設定にして使う。つまり、一定期間ログインがないと特定のデータを消去するようにしておくわけだ。このほかスマートフォンについても自動消去ツールがある。アイフォンではパスワードを10回間違えたら全データを自動消去する設定が可能だ。死後対策だけでなく、紛失時にも有効だろう。
こうしたソフトや機能を活用すれば、死後に見られたくないデータに関してはそのほとんどを処理できそうだ。だが、これを冒頭のAさんに伝えると、「データ以外にも、娘には見られたくない小物類がベッドの下に隠してある」とのことで、「死後も素敵なお父さんのままでいたい」と悩みは尽きない。
だが、実際にあるモノに関する生前対策はデータに比べて格段に難しい。遺言書に「ベッド下の荷物には触れないように」と付言事項として記載することも可能だが、その指示が実際に守られる保証はなく、効果はほとんど期待できない。
また、死後の各種手続きについては、「死後事務委任」という制度があり、届け出や申請といった事務手続きを弁護士や司法書士などの専門家に委任することもできる。だが、Aさんが隠し持っている「小物類」はあくまでも相続財産であり、死後委任の対象とするのは難しい。なにより、委任を受けた専門家より先に遺族がモノを確認するのは通常の流れであり、やはり生前対策としては期待できない。Aさんの小物に限らず、古い手紙や思い出の写真など、現物に関しては腹をくくるしかなさそうだ。
このほか、裏の対策としてはネット上の有料サイトの解約手続きも忘れてはならない。有料サイトの大半は自動更新制であるため本人の死後も課金は続く。そのため遺言にはきちんとサイト名とパスワードを書き、解約するよう指示をしておかなければならない。ただ、ここでも問題になるのが、家族に知られたくないサイトに登録している場合だ。
大手のサイトであれば、IDやパスワードが分からなくても、家族が死亡診断書などを添えて申請することで登録解除が可能だが、家族に見せたくないサイトは、得てしてそうしたことも難しいケースが多い。残された家族に迷惑を掛けたくなければ、恥を忍んでサイト名とパスワードを残しておくか、生前に自身で解約するしかないようだ。
最期に、「隠したい財産」ではなく、自分の死のしらせ方についても考えておきたい。深い付き合いだが家族や友人にもその存在を教えていない相手に対しては、SNSの機能を使って自分の死をしらせることができる。
例えばフェイスブックでは、自分の死後にあらかじめ設定していた友人にアカウントの管理者になってもらう「追悼アカウント管理人」という機能があり、本人に代わってログインしてラストメッセージを書き込める。これにより、シークレットな相手にもフェイスブックを通じて、自分の死をしらせることができるというわけだ。
自分の死に対する生前対策というと、残すべき財産にばかり目が向きがちだが、人は誰も見せたくない部分を持っている。見せられない部分、残したくない遺産についても、頭の片隅に置いておく必要がありそうだ。
(2020/07/01更新)