新たな挑戦をするならいま

コロナショックをチャンスに!


 新型コロナウイルスの流行によって人々の行動様式が大きく変わるなかで、商品やサービスを提供する企業もまた、生き残りのために変化を求められている。だが見方を変えれば、国や自治体が新たな業域への展開を後押しする取り組みを講じている今こそが、企業にとって新たな挑戦を始める良い機会とも言えるだろう。コロナショックがもたらす変化を、ピンチではなくチャンスと捉えることで、明るい未来が見えてくるはずだ。


 新型コロナウイルスの流行が長引き、中小事業者にとって苦しい状況が続いている。特に外出自粛の影響を直接受けることになった宿泊業者や飲食業者の売上減は深刻で、東京商工リサーチの発表によれば、5月13日までに発生した新型コロナ関連倒産143件のうち、宿泊業が最多の30件、飲食業が21件を占めた。国からの休業補償もないなかで、多くの経営者が事業存続の淵に立たされている。

 

 しかしそのような状況下でも、それぞれの事業者は売上を確保しようと様々な方法を模索している。

 

 「5月の連休明けから、今までやったことのないテイクアウト販売を始めました。チラシを作って近所に配ったおかげか、出足は好調です」と語るのは、東京都江戸川区で居酒屋を営む経営者の男性だ。

 

 容器代やチラシの印刷代などの出費もあり、コロナ前の収入には遠く及ばないというが、「テイクアウトで初めてうちを利用したという人もいる。コロナが落ち着いた後に、そうした人たちがお店にも来てくれたら」と期待を込める。

 

 同じようにテイクアウトに活路を見出す飲食業者は多く、都心のオフィス街では宣言解除後も飲食店が道路にテーブルを出してテイクアウト販売を行う光景をよく目にするようになった。

 

 国や自治体も、そうした姿勢を後押しする。東京都では、新たにテイクアウトや宅配を始める飲食業者を対象に、印刷物制作費や梱包資材代を最大100万円支援する新たな助成金をスタートさせた。また国は、バーや飲食店が期間限定でアルコール類をテイクアウト販売できるよう、簡易に販売免許を認める措置を講じている。

 

消費者のニーズが劇的変化

 新型コロナウイルスの流行によって人々の行動や働き方が劇的に変化する以上、飲食業に限らず、すべての事業者が新型コロナウイルスに〝適応〞したサービスを求められている。そして、いち早く〝適応〞したなかには、コロナ前をしのぐ勢いを見せる企業もある。

 

 家電大手のシャープは、国内の品薄を受けて4月にマスクの生産を発表。するとオンライン販売受付には申し込みが殺到した。抽選販売に切り替えたところ、1回目の抽選には470万人、2回目の抽選にはそれをしのぐ680万人の応募があった。

 

 同社は公式ツイッターで「家電メーカーのシャープ、107年の歴史で最大のヒット商品がマスクになってしまいそう」と投稿し、戴正呉会長兼社長は、社員向けのメッセージで「引き続きマスクの供給量拡大に取り組むとともに、健康関連商品の拡大も図る」として、マスク販売を新たな事業の中心に据えて事業拡大を図る考えを示した。

 

 国外を見ると、米新聞大手のニューヨーク・タイムズは、これまで有料会員限定としていた電子版の記事を、新型コロナウイルス関連のニュースに限り無料開放したところ、月間閲覧数が倍増したという。その結果、有料読者の新規獲得にもつながり、同紙の今年1月〜3月の電子版購読者数は過去最高を記録した。一部の企業にとっては、コロナはショックどころかチャンスですらあるわけだ。

 

 世界保健機構(WHO)は新型コロナウイルスについて「世界的流行が収まっても、一部の地域で流行し続ける状況になり、決して消滅はしない可能性がある」との見解を示した。また世界的に経済活動が再開へ向かっていることに対して「終息に向けた道のりはまだ遠い」と警鐘を鳴らした。

 

 韓国はすでに経済活動を一部再開しているが、同時に防疫を徹底するための生活の指針を打ち出し、そこでは現在のような社会的距離を意識した生活が「最長2年」続くとしている。3月頃にはコロナ後の社会を表す「アフターコロナ」という言葉が流行したが、コロナの脅威がこの先も消えることはないという認識が広まるにつれ、現在では「ウィズコロナ(コロナと共に)」という言葉に取って代わられている。

 

 もちろん新規感染者数などが減っていけば社会の不安も薄らぎ、徐々に人々の行動は活発になる。しかし、それはもはや感染症の拡大リスクと共存する新たな社会であって、今回のコロナショックによって劇的に変容した人々の行動様式が、100%元に戻ることはない。事業者としては、望むと望まざるとにかかわらず、「ウィズコロナ」の社会で必要なサービスの提供を求められることになる。

 

 しかし中小事業者にとってこの変化はピンチであると同時に、チャンスでもある。前述のように、新型コロナウイルスの流行に対応したサービスを提供することで業績を伸ばしている企業も存在するからだ。

 

税優遇や補助金をフル活用

 そもそもコロナショックにかかわらず、業域拡大は中小事業者にとってメリットが大きいとのデータもある。このほど政府が発表した最新の中小企業白書では、中小企業の目指す姿の一つとして、「新たな価値を生み出す企業」が挙げられた。

 

 一般的に販売数量を増やすことは販売単価を落とすことにつながりかねないが、新規事業に進出した中小企業706社にアンケート調査したところ、「販売数量も販売単価も上昇した」と答えた事業者が39・8%と最も多く、「販売数量は増加したが販売単価は低下した」の3・1%、「販売単価は上昇したが販売数量が減少した」の0・7%を大きく上回った。

 

 白書では、残業規制や同一労働同一賃金といった「働き方改革」、最低賃金の継続的な引き上げ、被用者保険の適用拡大などによって事業者の負担が増大するなかで、「賃上げと利益拡大の両立を図るためには、付加価値の増大が不可欠」と結論付けている。

 

 また白書では新型コロナウイルス感染拡大の影響が深刻化するなかで、新たな付加価値の創造に取り組む企業の例も紹介している。それによれば、自社の既存技術を生かして、商業施設の入り口で高熱の人を検出できるシステムを開発した企業、他者との接触を絶った完全個室のフィットネスジム、VR(仮想現実)技術を活用してバーチャル就職説明会を提供する事例などがあるという。

 

 中小が新規事業に挑戦する上では、新型コロナウイルスでダメージを受けた事業者に対する公的支援が充実しつつあるという点も、助けとなる。先に挙げた東京都のテイクアウト補助金もその一つだが、事業にITツールを導入した際に最大で450万円を交付するIT導入補助金も申請を受付中だ。4月から募集を始めていた補助金では5月に募集を終えるものも多いが、新型コロナウイルスの流行によって多くの事業者が業務フローの見直しや新規事業の展開に乗り出すなかで、今後も補助や支援の取り組みが国・自治体で講じられるだろう。

 

 また、すでにある税制上の支援として、生産性に優れた設備投資にかかる償却資産税を3年間に最大で全額免除する税優遇や、投資額の一部を税額控除できる特例もある。こうした税制上の特例や補助金をフル活用して、新規事業への挑戦の助けとしたい。

 

 現在、国の新型コロナウイルス対策は、感染拡大の防止や、当座の生活救済に重点が置かれている。しかし今後、状況が改善されていけば、経済の再生や企業活動の促進に支援の重点が移っていくのは確実だ。その時に講じられるであろう新たな補助金や支援制度をいち早く利用し、競合他社に先んじるためにも、今から新規事業の取り組みを進めておくことが飛躍には欠かせないはずだ。

(2020/07/02更新)