配偶者控除の見直しやビール系飲料の酒税統一を盛り込んだ2017年度与党税制改正大綱が決定した。大綱の内容は国会での審議を経て、ほぼそのまま3月末に成立する税制改正法案になる。非上場の自社株の評価ルール、事業承継税制、広大地の評価など、中小企業や資産家に大きく関わるさまざまな税制でも見直しが盛り込まれており、経営戦略や相続対策に大きな影響を与えることは確実だ。17年度大綱の主なトピックと、経営者がチェックすべき項目を取り上げてみた。
17年度税制改正の柱と目された配偶者控除の見直しは、かねてより女性の就労進出を阻んでいると言われた「103万円の壁」の引き上げと、その税収減に伴う代替財源としての所得制限の導入で決着した。
現行の配偶者控除では、妻(夫)の収入が103万円以下であれば、夫(妻)が38万円の所得控除を受けられる。また103万円超でも141万円までは段階的に配偶者特別控除を受けられる。
これを17年度改正では、配偶者控除の条件である103万円を150万円に、配偶者特別控除の上限である151万円を201万円に、それぞれ引き上げる。見直し後は配偶者の収入が年間150万円以下であれば38万円の所得控除を受けることができ、150万円を超えると収入が5万円増えるごとに控除額が段階的に減り、201万円を超えると税優遇がなくなる。
減税対象を拡大することで減った税収減を補うため、同時に高所得者への制限も導入する予定だ。所得制限は3段階で、配偶者控除を受ける本人の収入が1120万円を超えると本来38万円ある控除枠が26万円に縮小する。さらに1170万円超で13万円に、1220万円を超えると配偶者控除の適用はゼロとなる。
高所得者に負担を強いてまで103万円の壁撤廃に踏み込んだものの、社会保険料が自己負担になる「130万円の壁」や、民間企業の配偶者手当の支給要件などを置き去りにした見直しで、どこまで自由な働き方の選択につながるかは未知数だ。
相続税対策で大きなウエートを占める自社株評価のルールが見直される。特定の時期に大きな損失を計上して評価額を抑える節税策に対応するため、評価方法を算出する計算式のうち、「利益」が占める比重を現行の3分の1まで引き下げる。
自社株を評価する方法のうち類似業種比準方式では、配当と利益と純資産をそれぞれ「1:3:1」の比重で株価に反映させている。利益の割合が他に比べて大きいため、例えば役員退職金の支払いや不動産の含み損を整理することなどで損失を計上して利益を圧縮し、結果的に自社株評価を大きく引き下げることが可能となっていた。
そのため17年度改正では、三者の比重を「1:1:1」に改める。また参考にする類似業種の上場企業の株価に連結決算を反映させ、過去2年平均の株価を採用する。改正によって、利益調整での相続税対策が難しくなることに加えて、純資産額の大きい会社は自社株評価がこれまでより上昇することにもなりそうだ。見直しの内容は1月からさっそく反映される。
中小企業の事業承継時に贈与税・相続税の負担を減らせる「事業承継税制」は年々拡充されており、17年度改正でもさらなる要件緩和や利便性の向上が図られている。
同税制を利用するためには、自社株の承継後5年間にわたって一定の雇用を維持しなければならず、途中で要件を満たせなくなった時には、それまで猶予されていた贈与税や相続税の納税義務が加算税などを加えて発生する。そのため将来的な猶予取り消しリスクを恐れて中小企業が積極的に利用に踏み切れないことが課題となっていた。
この問題を解消するため、17年度改正では、猶予期間中に自然災害で被害を受けた事業者については、雇用確保要件を免除する。また大きな被害を受けたことで倒産せざるを得なかった企業については、猶予していた税負担そのものを免除するよう改める。
また同制度では5年間にわたって平均8割以上の雇用を維持することが求められるが、従業員4人以下の事業者は従業員が1人減るだけで条件を満たせなくなってしまうため、これを改めて、従業員が4人以下なら1人減っても猶予を継続できるよう条件を緩和する。ただし元の従業員数が1人の時は、0人になってしまうと猶予は受けられない。
事業承継税制で最も大きな見直しは、同税制と、相続時精算課税制度を併用できるようになることだ。これまでは自社株の贈与後、猶予期間中に要件を満たせなくなった時には、それまで贈与した自社株が暦年贈与扱いとなり加算税も発生していた。しかし相続時精算課税制度を選択できるようになったことで、もし贈与税の猶予が取り消されることになっても、2500万円までは一律20%の税率となり、加算税も付かずに済むようになる。事業承継税制を使う上でのリスクが大きく軽減されたと言えるだろう。
一方、事前に検討されていた、小規模事業者の雇用維持要件の6割への引き下げや、計画的生前贈与へのインセンティブの導入などは盛り込まれなかった。
資産家の相続税対策に多大な影響を与える見直しとして注目されていた上場株式の評価ルール見直しは見送られることが決まった。
上場株式は相続発生時から遺産分割協議を経るまでの一定期間は譲渡が認められないなどの制限があるにもかかわらず、その間の価格変動リスクが考慮されていない。そのリスクに見合った減額措置を行うべきと金融庁などが要望していた。しかし逆に株価が上昇する可能性もあることや、相続直前に株式を大量購入して税負担を減らす節税策が増えることへの懸念から、財務省が難色を示したとみられる。
一方、物納する際の株式の優先順位を引き上げる見直しは盛り込まれた。上場株式、非上場の自社株にかかわらず、国債や不動産と同じ第一順位に引き上げられる。延納もできずに物納を選ぶという時には、最初に株式を納税資金に充てることが可能となる。
〝タワーマンション節税〞規制の具体案は、固定資産税負担の按分ルールの見直しに落ち着いた。
高さ60メートル以上、おおよそ20階以上の高層マンションを対象に、1棟の固定資産税額を据え置きにした上で、中間階から上に行くほど増税に、下に行くほど減税にする。負担額の変化は、1階ごとに0・25%ほどで、例えば40階建てマンションの最上階であれば約5%の増税となる。とはいえあくまで数%の変動に過ぎず、実際の税額への影響は数十万円程度と見られる。資産価値とのかい離を埋められたとはいえず、タワマン節税への抑止力となるかは疑わしいところだ。
検討段階では中古物件も規制対象に含めるべきとの声があったが、すでに高層階に住んでいる納税者からの反発を考慮して見送られた。新たな計算方法が適用されるのは17年4月1日以降に売り出された新築物件のみとなる。
面積が著しく広い土地について最大で65%の相続評価減を認める広大地ルールが抜本的に見直されることとなった。面積が1000平方メートル以上(三大都市圏では500平方メートル以上)の土地は、土地の用途などの要件を満たせば、相続税の財産評価の際に大きく評価額を減らすことができる。計算に当たっては、路線価に面積を掛けて、さらにそこに一律の「広大地補正率」と呼ばれる数式を掛けて算出する。
しかし同じ面積であれば、整形地であっても三角地のような不整形地であっても評価額が同一となるため、実際に取り引きする際の実売価格とはかい離する事例が多数確認されていた。
そのため17年度改正では、これまでの広大地補正率に代えて、面積を考慮した補正率と、土地の形状や奥行などを考慮した新たな補正率を用いて、広大地の評価額を算定するよう改める。詳しい補正率などは今後詰める方針だという。改正内容は18年1月からの相続に適用される。
昨年7月にスタートを切った、中小企業が取得した機械装置の固定資産税を優遇する特例の対象が拡大される。
同特例は、3〜5年の中長期的な経営力向上計画を策定した上で、生産性が向上する機械装置を取得した時に、その固定資産税を3年間半額にするもの。これまでは単品160万円以上の機械装置のみが対象となっていたが、これに単品60万円以上の建物附属設備、単品30万円以上の測定工具、検査工具、器具備品が追加される。生産性が年平均1%以上向上することが要件であることは変わらない。
注意したいのは、対象が追加される地域と業種に条件が設けられることだ。全業種で対象の備品が拡大されるのは最低賃金が全国平均未満の地域となり、16年の最低賃金で見ると、東京、神奈川、千葉、埼玉、愛知、大阪、京都の7都府県以外は全業種が対象となる。最低賃金が全国平均以上の7都府県は、労働生産性が全国平均未満の業種でのみ、減税の対象が拡大される。
賃上げした企業の法人税負担を軽くする「所得拡大促進税制」について、中小企業が前年から2%以上賃上げした時は減税幅を最大22%に拡大する。現行制度では、給与支給総額が12年度から3%増加、給与支給総額が前年度以上、従業員1人当たりの平均給与が前年度以上の3要件を満たす企業が、賃上げ総額の10%を法人税額から税額控除できる。上限は法人税額の20%だ。
17年度改正ではこれを、前年度比2%以上の賃上げ条件を満たす中小企業を対象に、賃上げ総額の最大22%を法人税額から差し引くことができるようにする。積極的に賃上げに取り組む中小企業の税の軽減効果を大きくすることで、大企業並みの賃上げにつながるようにする。
企業の技術研究への投資に税優遇を認める「研究開発税制」では、制度の大幅な組み換えが行われた。まず、これまでは減税対象を新製品の製造や技術の改良に限定していたところに、サービス開発を新たに加える。具体的には人工知能やビッグデータを活用したサービスの生産性向上などが該当するようだ。
さらに同制度では、研究開発にかかった総額を対象とした「総額型」と、そこに上乗せできる「増加型」と「高水準型」があるが、このうち増加した額に応じて減税する「増加型」を「総額型」に統合する。その代わりに「総額型」の減税幅を、研究費の増減割合に応じて12〜17%へと拡大する方針だ。また「高水準型」は、現行基準のまま2年間延長される。
17年3月末で期限の切れる「生産性向上設備投資促進税制」は、新たに「中小企業経営強化税制」として改組されることが盛り込まれた。
全ての器具備品を対象とした上で、一定の生産性向上が見込める設備投資について、取得価額の特別償却か7%(資本金3千万円以下の事業者は10%)の税額控除を認めるもの。17年4月から19年3月までの時限措置となる。
昨年7月に施行された中小企業等経営力強化法に基づき、3〜5年の経営力向上計画を作成し、認定を受けることが条件となる。計画書はペーパー2枚と、この手の申請書類のなかではかなり少ないが、作成の際には税理士など専門家の関与が必須だろう。
中小企業にのみ認められた法人税の租税特別措置について、その対象から直近3事業年度の所得平均が15億円超の企業を除外する。資本金を減らすことで名目上の中小企業となって税優遇を受けようとする〝名ばかり中小企業〞を防止することが狙いだ。
17年度改正では、各事業年度の所得のうち800万円以下の部分について、本則19%の法人税を15%に軽減する中小企業の軽減税率は2年間延長されたが、こちらも所得平均15億円超除外ルールの対象となる。
少額投資非課税制度(NISA)の非課税期間を20年に延ばす新制度「積立NISA」を設けることが決まった。
現行のNISAは、年120万円を投資上限額として、株式や投資信託の売却益・配当益を5年間非課税とする制度。新たな積立NISAでは上限額が年40万円に減るが、期間は20年間に延び、非課税となる投資の総額は現行の600万円から800万円に拡大する。
両方の制度を併用して使うことはできず、「年120万円で5年」か「年40万円で20年」のどちらかを選択することになる。
(2017/01/30更新)