2017年度税制改正大綱決定

中途半端な所得税改革

内部留保を取り崩したい思惑も


 自民・公明両党は2017年度税制改正大綱を決定した。大綱の大きな目玉とされていた所得税改革は、限定的な中身にとどまり、与党内での議論の低調さが目立つ内容となった。また、賃上げした中小企業への減税策などが盛り込まれているが、ほとんどの中小企業は該当せず、その効果は疑問視せざるを得ない。一般紙の見出しには「中小企業優遇」の文字が踊っているが、今年度の税制改正大綱は、第二次安倍政権の経済政策である「アベノミクス」が順調でないことを反映した内容になっているという印象だ。


 これほどすんなりと決着した税制改正大綱も珍しい。安倍晋三首相は自民党幹部に「まとまるのが早いね」と感想を漏らしたという。

 

 昨年の税制改正大綱の議論は、消費税の軽減税率をめぐって自公両党で意見が二転三転した。それを考えても、静かな年末となった印象だ。この「すんなり決着」は何を意味するのか。そこには圧倒的な力を誇る首相官邸に対して、かつては首相すら口を挟めなかった自民税調が屈服した構図が浮かび上がってくる。

 

 象徴的だったのは所得税改革の議論である。自民党の宮沢洋一税調会長は与党協議会後の会見で、「長年の懸案に答えを出せた」と、配偶者控除の見直しが盛り込まれたことに胸を張った。だが約4カ月前の8月末、宮沢会長は「所得税の久しぶりの大改革を考えている」と豪語していた。にもかかわらず、あっという間に話は立ち消えになった。与党税調は配偶者控除を廃止し、働き方にかかわらず控除が受けられる「夫婦控除」の導入を目指したが、結局のところ配偶者控除の対象者を拡大させるという結論に達した。配偶者控除の廃止は専業主婦がいる多くの世帯で増税になるため、将来の選挙を見据えた官邸がダメを出したのだ。官邸の方針に対して与党税調はなす術もなかった。目玉のはずだった所得税改革は、どうしても中途半端の感がぬぐえない。

成果強調も法人税収はダウン

 17年度大綱の冒頭では、「雇用や所得水準が大きく改善している」とし、デフレ脱却と経済再生を最重要課題に取り組んできたアベノミクスの成果を強調してみせた。しかし、景気回復を実感している中小企業はほぼ皆無と言っていいのではないか。

 

 16年度の税収は昨年度の約57兆6千億円から1兆9千億円程度減り、55兆7千億円前後になる見通しだ。法人税収の低迷が主因で、15年度実績の56兆2854億円を下回る。税収が前年度実績を下回るのはリーマン・ショック後の09年度以来7年ぶりとなる。この数字に対し安倍首相は「なぜ税収がそうした結果になったかと言えば、それはまさに円高だ」と述べ、税収減がアベノミクスの失敗との指摘は「全くの誤り」と否定した。

 

 円安株高を支えに税収を伸ばしたことをアベノミクスの果実とするが、ここにきて大手黒字企業にも陰りが見えてきている。

中小企業向け法人減税は使い勝手悪く

 このアベノミクスへの閉塞状況は、17 年度税制改正にも大きく影響している。大綱には「アベノミクスの恩恵を未だ十分に実感できていない人々にもアベノミクスの効果を波及させる」「経済的に余裕がない若者が増加しており、こうした若い世代や子育て世帯に光を当てていく」と、アベノミクスの退潮を認めたかのような文言が並んでいる。

 

 振り返ると昨年の16年度大綱は、アベノミクスを税制面から支える色合いが濃い内容だった。輸出大企業を中心に企業の経常利益が過去最高水準に達したことをアベノミクスの成果と捉え、引き続き国際競争力を強化する必要があるとして、法人実効税率を20%台に引き下げた。

 

 ところが今回の大綱では、先に大企業が潤うことでタイムラグを置いて中小企業にも恩恵をもたらし、それがいつしか一般の国民生活にも及ぶという〝トリクルダウン〞理論は影を潜めた印象だ。

 

 その代わりとして登場したのが、賃上げした企業の法人税負担を軽くする「所得拡大促進税制」や、研究開発投資を行った場合に投資額の一部を法人税から差し引く「研究開発税制」だ。

 

 今回の大綱で政府は成長戦略の目玉商品としてピックアップしているのだが、果たして中小企業の業績改善の起爆剤になり得るのか。所得促進税制では賃上げ率が高い企業ほど減税額が拡大する。大企業並みの前年度2%以上の賃上げを実施した中小企業は賃上げ総額の22%を法人税から差し引く。また研究開発税制は投資の割合に応じて減税額が高くなる。中小企業は開発費用の最大17%を法人税から差し引ける。

 

 確かに所得促進税制の法人減税22%、研究開発税制の17%の減税は魅力的だ。だがいずれの減税策も、黒字法人に限った話であり、ほとんどの中小は蚊帳の外だ。頑張ったとされる黒字の中小企業のみが優遇されるにすぎない。ますます中小企業間の選別に拍車がかかることが懸念される。

 

 また政府には、これらの減税策を打ち出した理由として企業の利益の貯蓄である「内部留保」を切り崩したい思惑がある。内部留保は15年度末時点で377兆円に上るが、内部留保のほとんどは大手企業によるものだ。大企業ならいざ知らず中小企業に内部留保を切り崩す余裕があるはずもなく、これらの中小企業減税は絵に描いた餅と言わざるを得ない。

(2017/01/29更新)