地銀再編が加速

「地方経済を救う」は本当か


 地方銀行の数が「多すぎる」と強調する菅首相のもと、政府と日銀が地銀の再編に向けた動きをを加速させている。多くの地銀の経営が悪化している状況に対し、統合や合併によって収益力の強化を狙うという。ただ、政府主導で地銀の合併統合を急き立てれば、採算の合わない中小企業の整理にもつながりかねない。コロナ禍で生き残りをかけて苦心する中小企業の今後にも大きく関わる地銀の再編を考えてみる。


 政府と日銀が地銀の再編に向けて動き出している。菅首相は「政府が強制的にやることではない」と地銀の自主性を尊重する姿勢を見せてはいるが、昨年11月には地銀などの統合合併で市場占有率が高まることを独占禁止法の適用除外とする特例法が施行していることからも、実質的に政府が先導していることは否めない。

 

 また日銀の黒田東彦総裁も9月の会見で「再編は当然選択肢の一つ」と述べ、地銀が経営統合や経費削減に取り組むことを条件に日銀当座預金に年0・1%の金利を上乗せする制度を発表するなど、政府と足並みを揃えている。

 

 菅首相は昨年秋に自民党総裁選に立候補した際、異次元の金融緩和策への影響について聞かれ、「地方の銀行は将来的には数が多すぎる」、「地方銀行の再編も一つの選択肢」と早くも地銀再編に意欲を示していた。11月に施行した特措法も、その布石として安倍内閣の官房長官時代に自ら主導して成立させたものだ。

 

 さらに政府は地銀の合併に1件30億円を補助する交付金制度の創設も進めている。周到に準備を整えるなかで、今さら「政府が強制的にやることではない」と言ったところで、もはや地銀の再編という政府の既定路線が揺らぐものではない。

 

政府主導の統合を疑問視

 菅首相が地銀の再編に意欲を示すのには、各行の厳しい経営状況がある。上場する78行(グループ含む)の2020年4~9月期の連結決算では6割にあたる50行(同)の最終損益が減益赤字だった。コロナ危機で貸し倒れに備えた費用が膨らんだことが要因とみられ、21年3月期も5年連続の減益になる見込みとなっている。

 

 さらに、首相の言う「地銀が多すぎる」との指摘については、シンクタンクの日本経済研究センターがこのほど「オーバーバンキング」の度合いを都道府県別に分析して裏付けている。レポートによると全国の地銀は信金や信組、ゆうちょ銀行などとの競争が激化し、29年には過剰度の高い地域が全国で過半の27県になるという。

 

 こうした状況からは、合併や統合による地銀の経営基盤強化が待ったなしのようにも見えるが、一方で10万人当たりの金融機関店舗数ということで見ると日本の銀行は決して「多すぎる」ということはない(グラフ)。また、多くの地銀が苦しい経営状態であるのは間違いないものの、銀行経営の健全性を示す指標となる自己資本比率は19年度決算で9・46%と、国内で規制が生じる基準の4%を大きく上回り一般的な国際基準の8%もクリアしている。

 

 現況では十分な資本がないとは言い難いなか、地銀の再編のメリットについて年末の参院財政金融委員会で栗田淳一金融庁監督局長は、「合併統合でできた余力を地域に振り向ける」と、合併が地域社会に貢献する可能性を示唆した。だが、これまでの地銀の経営統合が、地域経済に貢献したという話を聞くことは少ない。金融庁のこの答弁に野党議員からは「コロナ問題の中で銀行も必死に企業を支えている。合併統合を急がせれば中小企業を整理することになりかねない」と、コロナ禍で再編を急ぐことのリスクが指摘された。

 

 確かに、地方格差も目に見えて広がるなかで地銀に再編を急がせて収益力の強化ばかりを追求させれば、これまで良好な関係を築いてきた中小企業に対しても貸し渋りや貸しはがしに向かうしかないという状況は十分に起こり得る。

 

中小企業が融資難民に…

 地銀の経営統合によって地域独占の状態となれば、地元企業に金融機関選択の余地はなくなり、仮に貸し渋りにあえば他に相談する相手さえなくなる。域外の企業に貸し出す「越境融資」も増えてはいるが、やはり初取引の中小企業にとってハードルは高い。千葉県内のある水産業者は「いまの銀行とは長年の付き合いがある。合併で店舗が閉じたとして新たに東京あたりの窓口に行ったところで、こちらを信用してくれるのかどうか。融資難民になるのは困る」と不安を口にする。

 

 実際、すでに銀行の支店や金融窓口のない地域は増えつつある。昨年10月に発足した長崎県の十八親和銀行は、今後すべての支店の4割にあたる71店を統合する計画で、地元では金融機関の「過疎状態」が危惧されている。大和総研によると、今後数年間で地銀と都市銀行を合わせて約1千店舗の削減が計画中とのことだが、そうした合併が金融庁の言うように「余力を地域に振り向ける」ことに本当につながっていくのかどうか。

 

 菅政権では、生産性の低い中小企業の再編を促進し、今後20年間に企業数を現状の6割程度にまで圧縮する計画を立てている。地銀の再編にしても、生産性や収益性だけを追い求めていけば必ず切り捨てられる層が出てくる。「国民経済の健全な発展に資する」という銀行法第1条の目的と併せて考えていきたい。

(2021/03/01更新)