隠し子多数で泥沼の争族

マラドーナ氏 死去


 サッカー界の英雄として知られる元アルゼンチン代表選手、ディエゴ・マラドーナ氏が60歳で死去した。マラドーナ氏の急逝によって、関係者の頭を悩ませているのが、他ならぬ相続問題だという。同氏はサッカー界きっての〝艶福家〟でもあり、世界中に認知問題を抱えた子がいるからだ。さらに約93億円に上る資産は全世界に散らばっていて、数々の金銭トラブルも発生していたようだ。


 マラドーナ氏は卓越した技術から「神の子」と呼ばれ、世界中のサッカーファンを魅了してきた。ただ一方で、手によるゴールが「神の手」として有名になったり、1994年W杯ではドーピングで大会を追放されたりするなど、お騒がせ男という意味でも名を馳せた。現役引退後に見せた突飛な行動の数々で同氏を知る人も少なくないかもしれない。

 

 そしてマラドーナ氏は、その死後も関係者らに〝混乱〟を巻き起こしている。同氏はサッカー選手としての高収入だけでなく投資でも資産を築き上げ、その遺産は約93億円に上るとみられている。この遺産を巡る争いが、早くも泥沼化の様相を呈しつつあるのだ。

 

 相続人として真っ先に名乗りをあげたのが、2003年に離婚した元妻のクラウディアさんとの間にもうけた2人の娘、ダルマさんとジャンニーニャさんだが、ここにきて2人とマラドーナ氏の生前の不和が報道されている。16年にクラウディアさんが財産分与を求めて裁判を起こした際に2人の娘も支援していたことから、マラドーナ氏が2人を相続対象から外す考えを示していたというのだ。

 

 アルゼンチンの法律でも遺留分に当たる親族の取り分は保障されているものの、もしマラドーナ氏の〝遺言〟などが今後明らかになった場合、彼女たちに財産がわたらない可能性もある。

 

愛人の子は遺産をもらえるか

 マラドーナ氏は生前に、多くの子の認知訴訟を抱えていたことでも知られる。実際にこれまでにも、1980年代にイタリア人歌手の女性との間にもうけた息子、晩年をともに過ごした元恋人との娘、別の元恋人との間に生まれた息子と、3件を認知している。代理人によれば、薬物のリハビリで滞在していたキューバにも少なくとも3人の子どもがいるという。

 

 さらに〝神の子の子〟を名乗る人物が新たに2人現れている。それぞれ数年前に父親がマラドーナ氏であると母親に知らされたといい、マラドーナ氏の代理人にDNA検査への協力を求めたが拒否されたというのだ。法廷闘争に訴える姿勢を示しているが、すでに認知されている子たちは検査への協力を断固拒否する方針で、これまた両者の対立は収まる気配がない。マラドーナ氏は生前の艶福家ぶりから「サッカーチームを作れるほどの子がいる」とやゆされたこともあるが、あながち冗談ではなさそうだ。

 

 93億円の資産管理を巡る状況も相続問題を複雑にしている。マラドーナ氏は自身の商標を管理する会社を約10年前に設立したが、なんとこの会社の共同所有者にマラドーナ氏自身が含まれていないことがこのほど明らかになった。会社を所有するのは代理人の弁護士とその兄弟だといい、今後も同氏の商標は利益を生み続けるだけに、この状況に遺族側は猛反発しているという。

 

 さらに遺産はアルゼンチン国内だけでなく米国、イタリア、UAE、中国、ベラルーシなどに分散していて、しかも各地で金銭トラブルが起きていたようだ。様々な理由でマラドーナ氏に対して法的手続きを行った債権者らが遺産分割に関与するとなると、「相続争いに加わる人数は50人以上になる」(地元メディア)こともあり得る。

 

経営者も他人事ではない?

 さすがに世界の英雄だけあって、マラドーナ氏は争族トラブルでもスケールが大きいが、こと隠し子の認知や相続となると、経営者にも心当たりのある人がいるかもしれない。日本の法律では、隠し子の相続については、原則として「認知していれば権利があり、していなければない」ルールになっている。かつては婚外子の取り分は嫡出子の2分の1というのが定説だったが、2013年の最高裁判決により、今では婚外子でも認知さえされていれば、嫡出子と同じだけの法定相続分を持つようになっている。

 

 家族の手前もあって今は隠し子を認知しづらいが、なんとか財産を残してあげたいと思うのであれば、遺言で非嫡出子を認知する「遺言認知」という制度もある。遺言執行者が実行することで、隠し子は認知され、嫡出子と同じ権利を持つことができる。もちろん家族の反発は想像するに余りあるので、そうした部分まで含めて関係者全員が納得できるような生前対策が欠かせない。

 

 なお法定相続分を得られるのはあくまで子だけであり、いかに付き合いが長くても「愛人」が法定相続人になることはない。愛人は「相手が結婚していることを認識したうえで交際をしている者」を指し、特定の恋人関係や単に籍を入れていない「内縁」とは異なり、法律上の保護に値しない「不貞」の存在とみなされているためだ。

(2021/02/01更新)