金地金でリスク対策

消費税増税の特需にも期待

不安定時代の最後の投資先


 ビットコインをはじめとした仮想通貨の価格下落に続き、株価もアメリカの利上げをきっかけに値動きが大きくなっている。こうした状況下でも安定した資産保全の手段として注目されるのが金地金だ。一般的に株式と比べて価格変動リスクが低いと言われており、消費税の増税を控えたこの時期に購入すれば価格が変わらなくても増税分の〝利ザヤ〞を抜けるといううま味も加わる。先行きが見えない時代、比較的安定した資産と言われる金地金への投資がリスク対策になり得る。


 投資家にとって今年は受難の年になるかもしれない。日経平均はアメリカの代表的な株価指数であるダウ平均株価の下落に連動して一時急落し、1月23日には26年ぶりに2万4千円を超えていた株価が、2月14日には2万1千円を割り込んだ。

 

 また、この数カ月でより急激な下落を見せているのが仮想通貨で、コインチェック社の流出問題を境に大暴落し、代表的な仮想通貨のビットコインはわずか2カ月で最大7割以上の値下がりとなった。

 

 仮想通貨と比べればまだ値動きが緩やかな株式でさえ、わずか数週間で価値が10%以上低くなるのだからたまらない。せっかくこれまで蓄えてきた資産をむやみやたらと目減りさせることのないように、様々な投資商品に目を配り、リスク分散を図ることがより重要になるだろう。

 

500グラム以上購入しないと手数料でマイナスに

 こうした中で金投資への注目度が高まっている。株式への投資はその企業の業績だけでなく、経済的もしくは地政学的要因からも価格が大きく変動することに加え、経営破綻などで会社そのものがなくなり価値がゼロになるおそれがある。

 

 だが、金地金は政治、経済的な要因に影響されにくいことがメリットといえる。事実、日経平均が13%、ビットコインに至っては72%下落した中で、金相場は3%の下落にとどまっている。そのため、特に株式の投資環境が悪化する時期に注目される傾向がある。

 

 さらに、消費税増税を境に金への投資熱が高まっている。実際、これまで消費税の導入や増税の際には毎回金の輸入量が急増してきた。消費税の導入前に1カ月25〜30トンで推移していた輸入量は、導入直前の2月には39トン、3月には41トンへと増え、導入後の4月には15トンへと激減した。

 

 たとえ金の価格そのものが上昇しなくても、金は「購入時に消費税を払い、売却時には消費税を受け取れる」という仕組みのため、消費税率が上がることによって売却時に増税分だけ得をすることになる。

 

 田中貴金属工業の2月15日時点の金価格表を見ると、購入価格は1グラム当たり税込みで5060円、売却価格は4975円となっている。この売却価格を税率10%へと単純に置き換えると5067円となる。仮にこのままの価格で増税前に金を買い、増税後に売るとすると、購入価格は5060円で、売却価格は5067円となる。売買手数料などのコストを無視すれば、金価格が上がらなくても1グラム当たり7円の儲けを得られる。500グラム程度だと儲けはわずかだが、仮に500キログラム購入すれば350万円が手に入る。金自体の価格が下落さえしなければ、買えば買うほど儲かることになる。

 

 注意しなければならないのは、これはあくまでも500グラム以上を購入したときの話であり、購入量が少ないと別途手数料がかかるため儲けが出ないということだ。例えば100グラムなら購入時と売却時にそれぞれ手数料が1万6200円必要で、増税後の売却額50万6700円から購入価格50万6千円を引いた700円の利益は、手数料で大きくマイナスになる。消費税増税による利ザヤを狙った投資は富裕層向けで、少額の購入だと増税メリットはない。これは田中貴金属工業だけではなく、三菱マテリアルなどほかの貴金属商を使った場合でも同様となっている。

 

 また、売却時には所得税が課税されることも考慮しなければならない。営業目的で継続的に金の売買をするのでなければ「譲渡所得」になる。譲渡所得の計算は、金を保有していた期間が5年以内なら「金を売った利益+それ以外の総合課税の譲渡益-特別控除50万円」だが、保有期間が5年超ならその譲渡所得を半額にできるので、長く持っているほうが断然有利になる。

 

為替の変動には注意

 金投資の注意点はほかにもある。金は利子が付く預貯金や配当を得られる株式投資と違い、利回りが期待できない。景気が上向いて金利が上昇するのであれば、利回りのない金投資は不利となる。

 

 また、金自体の価格の上下に加え、為替相場によって円建ての価値が変わってしまうことにも注意が必要だ。金は通常、国際市場ではトロイオンス単位で取り引きされ、ドル建てで売買されている。国内で金を売買する際には円建ての価格で取り引きするので、金価格はその時点の為替レートで円換算される。金価格は外貨預金などと同様に為替相場の影響を受けることになる。

 

 そして、金を購入すると税務署にお金の動きを捕捉される。200万円超の金を売買すると業者から税務署に通知が行く仕組みがあり、国税当局に情報が筒抜けになっている。

 

 だがそれらの注意点を考慮しても、金が安定性の高い資産であることに変わりはない。最近は少額で金を買って積み立てる「純金積み立て」を取り扱う取引所が増えている。あらかじめ決めた一定額で金を毎月購入する仕組みで、月1千円から投資できるところも多い。必ずしも富裕層向けの商品というわけではないが、金投資を始めるきっかけにはなり得るだろう。他の投資商品と見比べながら、金を購入するか否かを見極めたい。

(2018/04/03更新)