過熱ぶりに警戒感も

ジャブジャブの不動産融資

ターゲットは土地持ちの富裕層


 銀行による企業や個人への貸し出しを促し、デフレ脱却を狙うための「マイナス金利政策」を日銀が導入して2年が経過した。日銀が目指す2%の物価上昇は依然として達成されていない状況で、銀行の収益力低下も顕在化してきた。そうした中で、地方銀行などの多くでは富裕層をターゲットにしたアパート建設融資を強化している。供給過剰で空室率が上がり、たとえ家賃が滞ったとしても、土地を持っている富裕層からは取りはぐれが少ないと考える金融機関もある。家賃収入の見通しなどを十分に審査しないまま融資を実行する金融機関には警戒を強めたほうがよさそうだ。


 日銀は2016年1月、新興国経済の減速による悪影響を防ぐ景気刺激策としてマイナス金利の導入を決定した。マイナス0・1%という超低金利だ。デフレ脱却が狙いだったが、消費者物価の伸びは鈍く、目標の半分にも届いていない。昨年12月の物価上昇率は前年同月比0・9%増。日銀が見込む「2019年度ごろ」までに2%という目標の達成はなお不透明な状況と言っていい。

 

 住宅ローン金利や企業向け貸出金利を幅広く押し下げた一方で、地方銀行は収益低下に苦しんでいる。東京証券取引所などに上場する地方銀行82行(持ち株会社を含む)の17年4〜12月期決算は、純利益の合計が前年同期比17・9%減の8179億円となった。全体の約6割に当たる49行が減益だった。18年3月期の通期予想は、純利益合計が前期比13・4%減の9211億円と5年ぶりに1兆円を割り込むことになりそうだ。

 

 全国地方銀行協会の佐久間英利会長(千葉銀行頭取)は「未曾有の金融緩和政策が続くと基礎体力が失われていく。地域の金融仲介機能の維持に深刻な影響が出る可能性がある」と、警戒感を強めている。

 

 収益が低下する背景として、地方経済の地盤沈下で企業向け融資が苦戦していることが挙げられる。低金利の長期化に伴い、銀行は預金と貸し出し金利の差である利ざやが縮小し、収益が悪化している。

 

中国人投資家の〝爆売り〟もあり得る

 その一方で、超低金利で銀行の貸し出しは伸びている。これを牽引してきたのが不動産融資だ。収益の悪化を個人への不動産融資を増やすことでカバーしている。

 

 日銀によると、全国の新規融資額はマイナス金利導入の16年に12・3兆円と前年比15%増となっている。バブル期の最高額が1989年の10・4兆円だったので、それよりも約2兆円も多いことになる。

 

 アパートローンも前年比21%増の3・7兆円と09年の統計開始以来、最高に達した。貸家の新設着工件数も41・8万戸と高い水準になっている。

 

 だが地方都市は人口減少が進んでおり、貸家などの大量な着工は実需に見合わず、融資の返済原資である家賃収入が落ち込むことになりかねない。運営を管理会社に一任する「サブリース」契約で決められた家賃を受け取り続けることになっていた大家が、不動産会社の業績悪化などを理由に家賃を減らされトラブルになるケースも出始めている。

 

 さらに今後、注意すべきなのが20年に行われる東京五輪前後の不動産市場だ。五輪前後に不動産バブルがはじける可能性も考えておく必要があるからだ。

 

 あるエコノミストは「アパートやマンションなどの建設過剰による空室率の上昇と、19年10月に予定されている消費増税の相互作用によって住宅価格が一気に下落することも考えられる」と指摘する。

 

 消費税率が8%に引き上げられた際、最も大きな影響を受けたのが不動産市場だった。首都圏のマンション販売は、前年同月比で実に39・6%減の2473戸に落ち込んだ。消費増税と絡み合う形で中国人投資家のマンション爆買いは、19年の前後から爆売りに転じるタイミングにあると予想する専門家もいる。中国人投資家は東京五輪招致が決まった13年9月以降に爆買いを始めたとされる。不動産を売った際にかかる譲渡税は所有期間が5年以内なら39%の課税となるが5年を超えて売却すれば20%で済む。そのため19年以降が爆売りのタイミングとみられるからだ。

 

「金融システムの潜在的リスク」

 金融庁や日銀は過剰な不動産融資が急拡大していることを問題視している。金融庁は16年10月に公表した行政指針で「金融システムの潜在的リスク」のひとつとしてアパート建設などの不動産に融資が集中している動きを挙げている。

 

 また日銀も17年4月に金融システムの現状と展望をまとめた「金融システムリポート」で「地域によっては賃貸住宅の空室率が高まっており、これまで以上に入口審査や中間管理の綿密な実施が重要」とし、人口減少で地域経済の縮小が懸念される中、金融機関同士の競争激化に対し、一段と収益力を弱め、経営を不安定化させるリスクがあると指摘している。地方銀行が不動産融資に偏重しすぎると財務の健全性を損なうリスクも否定できない。

 

 黒田東彦日銀総裁の続投がほぼ決まったことで、マイナス金利政策の継続も確実視されている。地銀を監督する金融庁は25年3月期に地銀の半数超が貸し出しなど本業で赤字に転落するという大胆な試算を示している。となれば収益低下に苦しむ地方銀行がなりふり構わずに富裕層への融資攻勢に力を入れるものと考えられる。今後の不動産投資には慎重な判断が迫られるのではないだろうか。

 

 物件を売却しようとしても、市場価格の下落や空室率の上昇によって買い手が付かず、銀行からの借入金を返済できない事態になることだけは避けなければならない。

(2018/04/02更新)