過熱する返礼競争

ふるさと納税制度の行方

本来の目的って、なんだっけ?


 任意の自治体に寄付をすることで所得税や住民税の控除が受けられる「ふるさと納税」制度が利用件数を伸ばしている。その原動力となっているのは各自治体が用意するさまざまな返礼品だが、返礼品ばかりに注目が集まり、自治体による寄付者争奪戦が過熱するなかで、同制度の持つさまざまな問題点も浮上している。制度の趣旨を今一度見つめ直し、その未来を探ってみたい。


 ふるさと納税制度は、任意の都道府県・市区町村に寄付をすると、現在住んでいる場所で納める所得税や個人住民税の税額控除を受けられる制度だ。寄付した金額から2千円を超えた部分が、個人住民税所得割額の2割を限度として控除される。

 

 この制度が導入された背景には、都市部と地方間の税収格差是正を求める声や、生まれ育った故郷に税金面で貢献したいという納税者からの要望があった。

 

 平成20年の導入以来、利用者数は毎年約3万人でほぼ横ばいだったが、23年の東日本大震災を機に、被災地支援の手法として認知度が高まった。そこからは主に「実質2千円負担で地方の特産品がもらえる制度」として利用を伸ばしてきた。

 

 27年には給与所得者の確定申告が不要となる「ワンストップ制度」が創設されたことで利用増に拍車がかかり、年間の利用者数は250万人を超えた。同制度の利用増を政府は成功と捉え、さまざまな拡充を図っている。しかし普及に伴い、新たな問題点も浮上していることは見逃せない。

 

 総務省は今年4月、全国の自治体に向けて返礼品の自粛を要請する通知を出した。通知では「金銭に類似するもの」「資産価値のあるもの」として10品目ほどを具体的に列挙し、寄付金制度にふさわしくないものとして取りやめを求めた。

 

 商品券、プリペイドカード、電子マネーなどに加えて、ゴルフ用品、貴金属、家電などがその対象だ。総務省が具体的な品目を挙げたのは、これらの物品が金券業者やネットオークションなどを通じて換金されるケースが多数確認されているためだ。1万円を寄付して金券をもらい、それを5千円で換金したとすると、実質2千円負担どころか、3千円分の「利益」が出ることになる。

 

 実際にはこうした換金レートを見越した上で寄付上限を超える金額を寄付し、返礼品を転売するというケースもあるようだ。寄付どころか税制を利用して「儲けている」というのだから、制度の趣旨を逸脱すること甚だしいとしか言いようがない。

 

 総務省の通知に対する自治体の反応はさまざまで、宮崎県都城市などは今年4月からゴルフクラブを返礼品のラインアップから外すことを決定した。一方、従わない自治体からは「家電やゴルフ用品もれっきとした地元の特産品。要請に従う義務はない」との声が聞かれる。

 

 しかしその結果として豪華な返礼品に寄付が集まってしまえば、通知に素直に従った自治体だけがばかをみることになる。自治体によって姿勢が異なることが、過熱する返礼品競争を押しとどめられない一因ともなっている。

 

 自治体間の競争が止まらない原因は、納税者の側にもある。ふるさと納税の寄付を受け付けている自治体のなかには、寄付金の使い道を指定できるところが多くあるが、ふるさと納税の情報サイト『ふるさとチョイス』を運営するトラストバンクによれば、「用途は『おまかせ』を選ぶ人が多い」という。教育、文化事業や環境保全など、自分の関心の強いテーマを指定して直接貢献できる仕組みだが、実際には返礼品さえ選べれば何でもよいという人が多いようだ。こうした納税者の姿勢が、自治体の返礼品豪華主義を生んでいるのは確かだ。

 

「返礼品」以外にもメリットあり

 実質2千円の負担で特産品を入手できるふるさと納税は納税者にとってメリットがあり、賛否はどうあれ、それを利用したいと考えるのは当然だ。

 

 しかしせっかく制度を利用するのであれば、もう少し寄付金の使い道にも思いを馳せてよいのかもしれない。肉や魚をもらうだけではなく、同制度の使い方にはさまざまな可能性があるだろう。

 

 ある自治体では100万円以上の超高額寄付に対して、地元の遊園地の1日貸切権を用意している。半ば「客寄せ看板」のようなものだったが、実際に自治体出身の中小企業経営者が100万円を寄付し、貸切日には地域の児童施設の子どもらを無料で招待して、自由に遊ばせたという。本人は姿を見せず名前も明かさなかったというから、ややできすぎた美談だが、このように地元や縁のある土地に寄付をして貢献する手法のひとつとしても、ふるさと納税は考えられる。また、社会貢献活動として自社のイメージアップに利用する方法もあるだろう。

 

 平成28年熊本地震では、被災自治体に多くの寄付が集まり、寄付者の大半は返礼品を断ったという。災害に直面し、「応援したい自治体に寄付をする」という本来の趣旨に立ち返ったわけだ。同制度が今後さらに普及していくなかで、自治体が寄付金集めに血道を上げ、納税者が返礼品にしか注目しないというのは残念な話だ。自分の望む場所に、使って欲しい用途のために税金を納められる制度として長く続いていくためにも、今一度制度の趣旨に立ち返ってみることが必要だろう。

(2016/07/21更新)