路線価 都心ではバブル超えも

地価下落に備えるべき?

数年後に待ち受けるこれだけのリスク


 都市部の地価が高騰している。国税庁によると、東京、大阪、愛知、福岡などの大都市部の路線価は大きく上昇し、また全国で最も地価が高い鳩居堂前(銀座)はバブル末期を超える過去最高額を記録した。地価上昇の要因のひとつには、金融機関が個人向けアパートローンの貸し出しを増やしたために不動産経営をする個人が急増したことが挙げられる。不動産経営をする際には、2020年に開催される東京五輪や、22年に多くの宅地が流通する可能性がある「生産緑地問題」に関するリスクを見据えて投資をしないと、せっかく築いた財産を減らすことになる。


 国税庁が公表した路線価を都道府県別にみると、外国人観光客の増加によるインバウンド需要により、北海道や広島などの観光地は高い上昇率を見せた。だが、それ以上に高い上昇率となったのは大都市部だ。東京は3・2%、福岡は1・9%、愛知と大阪は1・2%と、全国平均を大きく上回る伸びを見せている。

 

 大都市部の地価が上昇しているのは、金融機関が不動産投資家に対し、バブル期以上に活発に融資をしていることが少なからず関係している。銀行から資金を引き出した多くの資産家が不動産経営に取り組むなかで、物件の価格が急騰しているのだ。

 

 不動産投資家向けの融資(アパートローン)は、日銀が昨年2月にマイナス金利政策をスタートさせたことで活発化した。銀行は日銀に預けていた金をアパートローンに回すようになり、その結果、昨年の金融機関による不動産融資は前年比15・2%増でバブル期並みの水準を記録している。

 

 金融機関は誰彼構わず貸すわけではなく、地主や経営者などの何らかの担保を持っている人に対して優先的に融資する。そのため、土地の情報を持っている不動産業者と銀行がタッグを組み、経営者に不動産経営を勧めるケースも目立つ。

 

銀行のアパートローンが急増

 都内で印刷業を営む山岡孝彦さん(仮名)は、相続対策を目的に初めて不動産経営に乗り出した。不動産業者が主導して作った不動産経営計画書が銀行に認められたことで、「思いのほか容易に資金を借りられた」と2年前の融資を振り返る。個人資産を担保にしたうえで、7千万円の融資を受けたそうだ。その後、担保を出せる借り手を探していた銀行が不動産業者と手を組んでいて、業者から紹介を受けていたことに気づいたという。山岡さんは不動産経営がうまくいかなくなれば担保を差し出さざるを得なくなり、〝一人負け〞してしまう可能性がある。

 

 不動産業者との契約に際しては、所有者に代わって業者が不動産を経営する「サブリース契約」について注意喚起する専門家もいる。都内の不動産コンサルタントは、「サブリース契約は、不動産業者が物件オーナーから建物を一括で借り上げ、それを借り手に貸し出す仕組みで、オーナーは空室の有無にかかわらず一定の収入を受け取れることになっている。しかし、物件周辺の家賃相場が下落した場合、業者は所有者に対して家賃の減額や契約解除を申し出ることができ、必ずしも家賃が保証されるわけではない」と指摘する。

 

 サブリース契約については契約段階から気を抜けない。不動産評価に携わった経験を多く持つ佐藤健一税理士・不動産鑑定士(千葉県松戸市)は、「契約書のなかで家賃減額に関する条項が目立たないように書かれていることもあります」と注意喚起する。不動産業者の説明をうのみにするだけではなく、自ら積極的に考えて不動産投資をする必要がありそうだ。

 

 これから不動産投資をするなら、土地をとりまく状況がここ数年で大きく変わることは必ず知っておかなければならない。

 

 前述の山岡さんは都内のマンションである程度の収入は確保できているものの、「計画書には経済環境の変化で不動産運用がうまくいかない場合のシミュレーションも盛り込まれていたが、それが現実のものになるのではないか」と不安を口にする。実際、都心部の景気は2020年の東京五輪までは上向きとなるものの、その後は反動で悪化するという見方が根強い。地価についても、いまは過熱している状態だが、五輪を境に一気に下降するおそれはある。

 

東京五輪や「生産緑地問題」見据えて投資

 さらに五輪の2年後には「生産緑地問題」が待ち構える。生産緑地制度は、都市部の緑地の計画的な保全を図ることを目的に1992年にスタートした仕組みで、生産緑地指定を受けた土地は、固定資産税の大幅減税や、農地を受け継いだ人に認められた納税猶予特例について一般農地と同様に受けられる。ただし、生産緑地は農作物の生産以外には使えず、指定を受けてから30年は売却できないため、指定が解除される2022年を指折り数えて待っている生産緑地所有者は多い。1992年に指定を受けた生産緑地のすべてが宅地になると仮定すると、最大で1万ヘクタールもの土地が一気に流通し、周辺地域の地価を大幅に下げることになりかねない。

 

 佐藤氏は、「特に地方ではただでさえ駅から遠い物件は売れないなかで、生産緑地が大量に宅地化されると供給過多になり、不動産経営がうまくいかなくなる可能性がある」と指摘する。ただし、「逆に安い価格で中古物件を買えるチャンスになるかもしれない」と付け加え、常に情報にアンテナを張り対応することが必要とアドバイスする。

 

 また五輪前の2019年には、予定どおりであれば消費税が増税される。税率が引き上げられると建物の購入の際の負担が増え、不動産投資に大きな影響を与えることになる。

 

 銀行からアパートローンの融資を受ける人が増えたのは、前述の山岡さんのように、相続増税により相続対策への関心が高まったことと無関係ではない。資産を現金から不動産にかえることで、次世代の相続時の負担は大きく減る。税理士や専門業者の意見を聞きながら、自ら最適な資産活用法を探るようにしたい。

(2017/08/29更新)