「掛け捨て型」再評価の流れ

押さえておきたい生命保険の新常識

マイナス金利で環境一変


 昨年2月に日銀が導入したマイナス金利の影響は、中小企業経営者と生命保険の関係に激変をもたらした。経営者の資産形成の〝花形〞だった「貯蓄型」の保険商品が次々に値上げとなり、多くが販売中止に追い込まれた。しかし一方で、これまで個人契約がメーンだった「掛け捨て型」を法人の節税に使う動きが生まれるなど、新たなトレンドと呼べる流れもある。生保の〝常識〞が変わりつつある今、経営者は保険との新たな付き合い方を考えなければならない。


 貯蓄型の保険が長年にわたって経営者に人気だった理由は、ひとえにそのリターンの高さゆえだ。保険商品は大別して「掛け捨て型」と「貯蓄型」の2種類があり、死亡などの保険事故がなければ前者はすべてが〝捨て金〞になるのに対し、後者は保険事故が起きなくても、払い込んだ保険料以上の現金を満期保険金で受け取ることができる。さまざまなスキームを組み合わせることで、保険料を全額損金計上しておいて、それ以上の保険金を受け取ることまで可能になるなど、まさに〝うま味〞しかない保険商品だった。

 

 しかし、マイナス金利によって利回りを確保できなくなると、貯蓄型保険の強みは限りなく薄れゆく状況にある。これまでも税務上の取り扱いをめぐって当局の規制を受け、特定の保険商品が販売中止になることはあったが、そういった税制などの理由なしに保険業界のトレンドがここまで一気に衰退したことは、過去を見ても例がない。

 

 経営者にとっても、これまで使えた節税手法が使えなくなり、使えたとしても今後は効果が激減するなど、その影響は深刻だ。既存の契約について利回りが見直されるというような事態は今のところ起きていないが、今後の新規契約を考えていた人にとっては大きな誤算だったろう。

 

生保活用の新たな可能性

 マイナス金利の導入は、保険業界にとってもユーザーにとっても大きい負の影響を与えた。しかし、そうした状況のなかでも、生保の新たな使い方を模索する動きが生まれている。その一つが、掛け捨ての保険の活用だ。

 

 掛け捨て型保険は以前からあるもので、その仕組みが何か変わったわけではない。しかし貯蓄型保険の強みが薄れるなかで、掛け捨て型保険の特徴や、その使い道が再評価されつつあるのが最近の流れだと言える。特に最近では、これまで法人で貯蓄型保険に入り、個人では掛け捨ての保険に入っていたという経営者が、個人契約を法人契約に変えて節税や事業承継対策につなげるというケースが増えているという。

 

 個人契約を法人契約に変える理由として挙げられるのは、法人契約には個人にはない節税メリットが複数ある点だ。例えば、法人で契約した掛け捨て型の保険は、貯蓄性のないものであれば払い込んだ保険料の全額が損金となる。同じ保険を法人に掛け替えるだけで、会社としてまとまった額の利益圧縮ができるわけだ。

 

 もちろん貯蓄性がないからこその全額損金だが、掛け捨て型のなかには貯蓄型商品ほどではないものの高い解約返戻金が見込める商品もあり、これらの保険についても、2分の1損金が認められているものがある。具体的には、長期間かけて解約返戻金が上がり、その後減少に転じて最終的に満了時点での返戻金が0円になる「長期平準定期保険」などがそれに当たる。こうした保険は「定期」とは言うものの100歳位までは保障が続くため、実質的には終身と言い換えてもいい。

 

 死亡時には高額の保険金が支払われるので、「もしもの時の保障」という最大の目的は当然達成でき、毎月支払う保険料の半分を損金に算入できる。さらに前述の通り一定期間まではまとまった額の解約返戻金が受け取れるため、受取人を法人に設定しておき、経営者のリタイアのタイミングに受け取ることで、多額の返戻金をそのまま法人から経営者に支払う退職金に充てることが可能だ。

 

事業承継資金を計画的に準備

 また、同じような保険商品を事業承継に特化して活用することも可能だ。中小企業の承継では、初代から二代目への自社株の引き継ぎがハードルとなりやすい。経営の安定のためには初代の持つ株式を後継者にすべて渡したいが、そこで後継者にのしかかる相続税負担が重くなりがちだからだ。

 

 そこで、先ほどと同様に保険金の受取人を法人としておき、受け取った返戻金で法人が二代目から自社株を買い取るという形を取る。そうすれば自社株の散逸を防ぎながら、オーナー一族の税負担を抑えることが可能となるわけだ。承継までの複数年でも、支払った保険料の損金計上によって自社株評価が引き下げられているため、買い取りにかかる総額そのものを抑えられるというメリットもある。

 

 また数ある節税策のなかでも、生命保険には解約をすると返戻金がすぐさま現金として戻ってくるという機動性の高さがある。商品によっては解約しなくても、生命保険の積立金を担保としてお金を借りる契約者貸付制度もある。企業である以上は無借金経営が理想だが、一時的な運転資金不足に陥ったときの緊急手段として、これらの機動性の高い留保金があれば、大胆な経営判断に尻込みすることもないだろう。生命保険の持つこれらの強みは、マイナス金利下の時代にあっても経営者の強い助けとなる。

 

 貯蓄型の強みが薄れたからといって生命保険自体を敬遠するのではなく、数ある節税や資産形成の手法のなかの選択肢の一つとして、その特徴をしっかり把握することが必要だ。その上で、自分に必要な保障は何かをしっかりと見定め、税理士やフィナンシャルプランナーなどと相談の上で、希望を叶える保険商品を選びたい。

(2017/08/28更新)