貯蓄型保険に激変

加入タイミングを誤るな!

マイナス金利で値上げ、売り止め続々


 日銀のマイナス金利政策によって保険業界が大打撃を受けている。積み立てた保険料の主要な運用先である国債の利率が低下していることで、従来の商品設計で顧客に約束した利回りを確保することができなくなっているためだ。特に資産形成に役立つとして中小企業経営者から人気の高かった養老保険や一時払い終身保険は、商品そのものの販売を取りやめる生保会社も多数出ている。貯蓄型保険への加入を検討している人は急がなければならないかもしれない。


 銀行にとって安定的な〝実入り〞だった国債の利子がなくなることは、さまざまな範囲に影響を及ぼすことになる。メガバンクはこれまで年0・02%だった普通預金の利率を0・001%へと早々に引き下げ、現在では地銀も含めほとんどの店舗型の金融機関で100万円を預けても年10円しか利子がつかない状態だ。また住宅ローンの金利も下がったほか、国債の長期金利も過去最低の水準で推移している。

 

 国債の利回りが低下することで最もダメージを受けているのが、他ならぬ生命保険業界だ。生保会社は、契約者が払い込んだ保険料を投資運用することで利益を確保している。また定期保険で受け取れる保険金と積立金の差額も、運用益が原資となっている。だが運用するといっても、顧客が積み立てたお金をリスクの高い株式に大量に投じることはできないため、生保会社の主な運用先となっていたのがローリスクローリターンの国債だった。しかし、マイナス金利によって国債がほぼ〝ローリスクノーリターン〞となっており、生保業界は顧客に約束した利回りを確保できなくなっている。

終身保険にとどまらず学資保険にも影響が

 数ある保険のなかで特に影響を受けているのは「貯蓄型」と呼ばれるジャンルの商品だ。保険には大きく「掛け捨て型」と「貯蓄型」があり、前者は一度支払った保険料が戻ってこないのに対し、後者は掛け捨て型に比べて保険料は高いものの解約時や満期の時にもまとまった額のお金を受け取れるようになっている。保障に加えて資産形成にも役立つというのが大きな特徴で、養老保険、終身保険、学資保険などが代表的な例と言えるだろう。

 

 日銀がマイナス金利を導入したのは今年2月16日だが、これに対する保険業界の動きは早かった。保険料を前もって一括で払う「一時払い終身保険」は、最終的に高額の解約返戻金を受け取れることや相続対策にも使えることで資産家の人気を博してきたが、マイナス金利導入直後から第一生命の子会社である第一フロンティア生命、富国生命などが相次いで販売を中止した。これまで「銀行に定期で預けるよりよほど高い利率が付く」というのが売り文句だったが、マイナス金利によって高利回りを確保できなくなってしまったためだ。マイナス金利導入から半年が経ち、第一生命も9月から円建ての一時払い終身保険と一時払い養老保険の販売を取りやめている。

 

 貯蓄型保険は人気が高いため販売中止にせずとも、利回りの引き下げや保険料の引き上げなどで対応しているケースも多い。国内最大手の日本生命は4月契約分から一時払い終身保険の利回りを年0・75%から年0・5%まで引き下げた。これまで返戻金が保険料を超えるまでに要する期間は約5年だったところが約9年まで延びたことになる。

 

 また終身保険だけでなく、影響は学資保険にも及びつつある。明治安田生命は10月から高利回りの学資保険の販売を中止。学資保険の売り止めは大手4社のなかでは現状1社だけだが、今後同様の動きが広がる可能性は大きい。

 

 こうした状況はいつまで続くのか。一時的な緊急手段として考えられていたマイナス金利が導入されて8カ月が経つが、日銀の意図した市場への資金流入、消費拡大には思ったほどの効果を発揮していない。9月20日に黒田東彦総裁は当面0・1%のマイナス金利を維持することを発表し、それどころか同月26日に大阪市内で行われた講演では「(今後の金融政策は)マイナス金利の深掘りが中心的な手段となる」と、マイナス幅の拡大方針を示している。そうなれば、貯蓄型の保険を販売する生保会社はもはやなくなるかもしれない。

 

今から加入を検討しても遅くはないタイミング?

 貯蓄型保険が経営者の人気を集めている理由は、資産形成手段として高利回りなだけでなく、さまざまな面で会社にとっても役立つからだ。支払った保険料の一部は損金計上され、払い込んだ保険料以上の金額が満期保険金あるいは解約返戻金として戻ってくる。解約すればまとまった額の現金がすぐ手元に用意できるため資金繰りに使え、解約までせずとも契約者貸付を使って運転資金に回すことも可能だ。法人契約をして満期保険金を退職金や役員の死亡弔慰金に充てることで財務の安定化にもつながる。保険への加入は、もしもの時のための保障が最大の目的であることは言うまでもないが、それに加えて自社の財務強化や老後の資産形成、または子や孫の教育資金として貯蓄型保険は大きく役立つわけだ。

 

 現在、すでに多くの貯蓄型保険の利回りが下がり、売り止めも起きている。だが日銀の姿勢を踏まえ、この先さらに〝うま味〞が少なくなる可能性があることを考えれば、今から加入を検討しても遅くはないタイミングだと言えるだろう。

 

 また保険業界では、マイナス金利のような外的要因がなくとも、ある時から特定の商品が売られなくなることがある。保険料の全額が損金になるとして人気を博した「逆ハーフタックス」保険は、2014年から15年にかけてほぼすべての保険会社で突然販売を取りやめた。理由は明らかにされていないものの、税制の死角を突いた法解釈を税務当局ににらまれ、当局との全面対決を避けた業界側が自主規制に踏み切ったともささやかれている。

 

 どんなに人気の高い保険商品でも、来年も同じようにあるとは限らない。もちろん保険は長期的な資産形成プランに従って契約するべきものであることは大前提となる。自分の老後や会社の将来のビジョンに合わせて、希望に最も合う保険を選びたい。

(2016/10/28更新)