誰もが当事者の時代

知っておくべきお墓の基本

先祖の墓に入らない人が7割


 死んだら先祖代々の墓に入るだけ――。それが当たり前だった時代は、もはや遠い過去のようだ。戦後日本は主要産業を農業から工業・サービス業へと大転換し、これにともない都心一極集中による過疎化や核家族化などが進んだ。都会に出た者が先祖伝来の墓や地域ごとの共同墓地を守っていくことは難しく、死後に先祖代々の墓に入る人は3割にも満たない状況だという。生きていくだけでも大変な日々の中で、自分が入る墓についても生前に考えておかなければならない時代になったわけだ。気になるお墓の費用や税金などについて調べてみた。


 公益財団法人生命保険文化センターの調べによると、「自分のお墓がある」という人は全体の3分の2にも満たない63%だったという。ご先祖やふるさととの関係が希薄になったと嘆くか、伝統やしきたりから解放されたと捉えるかはそれぞれの価値観だが、戦後に農業離れを加速させた経済政策による、地方から都心への人口流出の結果の必然的な数字であることは確かだ。

 

 さらに、この約6割の人もすべてが先祖の墓に入るわけではないようだ。自分の埋葬方法の希望について楽天リサーチが2014年に実施したアンケートによると、「先祖代々のお墓」への埋葬を希望した人は29・5%と3割に満たない結果となった。しかも、「先祖代々のお墓」を希望しているのは男性が36・6%に対し、女性は22・4%にとどまっていることから、現実には、用意されているお墓に納まる人は3割を大きく下回るものと思われる。つまり、将来的には実に7割以上の人は、今後自分の墓についてなんらかの検討をしなければならないということだ。

 

 お墓を新規で購入するとなると、その費用は大きく分けて「墓地代」「墓石代」「管理費」の3つに分けられる。まず墓地の「永代使用料」とも言われる墓地代だが、一般に「墓地の購入」といっても、これは土地を買うということではなく、あくまでも墓として使ってよいという使用料に過ぎない。そのため「買った」といっても所有権は霊園や寺院にあり、墓以外の目的で使用することはできず、自分の土地ではないため売ることも貸すこともできない。そして当然、消費税も固定資産税もかからない。

 

 なお、民間霊園などでなく寺院で購入する際には、基本的にその宗派の檀家にならなければならないため、いわば入会金ともいえる「入檀料」を求められることになる。

 

消費税非課税は「永代使用料」だけ

 さらに、永代使用料はマンションなどと同様に、日当たりや方位、角地などで人気が変わり、値段にも反映されている。単に区画の面積だけで値段が決まっていないので比較してみると興味深い。

 

 続いての「墓石代」はお墓の材料費である石とその施工代だ。材質や規模、細工などによって大きく異なるため詳細は省くが、石代、施工費用ともに消費税の課税対象となっている。モノによっては数千万円という買い物になるため、消費増税の行方を見据えて検討したい。

 

 墓石代は購入の際の消費税はかかるものの、相続にあたっての相続税の対象からは、先祖を供養する「祭祀財産」として除外されている。そのため、生前に購入しておけば相続財産の圧縮にもつながる。これは仏壇や仏具も同じだ。ただ、純金製の巨大仏像や宝石を散りばめた豪華すぎる仏具は、当然ながら課税当局が認めないだろう。

 

 そして「管理料」だが、これは墓地や霊園を文字通り管理していくための費用で、定期的に支払い続けなければならないものだ。消費税の課税対象となっているが、ほとんどの場合で内税(税込み)の表示がされているため、消費税分を払っているという実感を持たないことが多い。ただ、やはり増税時にはそれなりに値上げされるので気を付けたい。

 

 この管理料は、自分のお墓を買ったことに付随して払うものだが、不思議と管理費を使ってきちんと「管理」するのは霊園の建物など、それぞれの墓以外の部分になる。アパートの管理人さんのように掃除やゴミ捨てをしてくれるわけではない。賃貸住宅で家賃とは別に支払う「管理費」と同じように考えていたほうがいいだろう。

 

 そしてこの「管理費」の支払いが滞ると、永代使用権を購入したとはいえ金の切れ目が縁の切れ目となり、お骨や墓石は撤去され、一般的には合祀されてしまうことになる。もちろん、撤去までにはお墓の所有者に連絡をし、埋葬されている故人の名前を官報に公告することなどがお寺や自治体には法律で義務付けられているため、1回の未払いですぐに無縁仏となるわけではない。

 

散骨での注意点

 お墓に付随して話題になるものといえば、埋葬方法だ。自分の希望する埋葬方法を聞いた冒頭のアンケートでは、「先祖代々のお墓」(29・5%)に続いて、「まったく考えていない/決めていない」(28・9%)、そして3番目には「散骨」(16・6%)という結果となっている。特に女性では22・0%と、男性の11・2%に比べて散骨を希望する人が多い。

 

 墓地や埋葬に関しては、1948年に制定された墓地埋葬法が根拠法となり、死後の遺体の扱いや火葬について事細かに定められているが、ここでは散骨は禁止となっている。ただ法務省が「節度をもって葬送の一つとして行われる限り違法ではない」という見解を示していることから例外的に認められているということは覚えておきたい。

 

 散骨にあたっては、原則として他人の土地には撒けず、漁業や農業、環境への配慮が求められている。すなわち基本に従えば自分の土地でしかできないことになるが、現状は「グレーゾーンにみんなが触れないようにしている状態」(都内の葬儀社)なのだという。いかに故人の遺言であっても、うかつに試みて墓埋法違反などの罪に問われてはつまらない。住職さんなり専門の業者なりによくよく話を聞いてから慎重に取り組みたい。

 

 お墓や埋葬について考えなければならない人が7割に達しているなか、今年のお盆は死をタブー視せずに、家族みんなが当事者として話し合ってみたいものだ。

(2017/08/02更新)