見逃し厳禁 消費税対策

滞納危機を回避


 消費税増税から1年以上が経過した。過去2回の税率引き上げの際には増税2年目に新税率の重みが増し、納税できなくなる事業者が急増した。税金を滞納すると延滞税の負担に加え、支払いが長期にわたって滞れば事業用財産の差し押さえにも発展しかねない。税率10%の重負担が圧し掛かる今後、毎年多くの適用漏れが発生している各種の軽減策や、新型コロナの感染拡大を受けて追加された措置を見逃すわけにはいかない。


 過去2回の増税時を振り返ると、消費税の新規滞納が急増するのは増税2年目だ。税率が3%から5%に引き上げられた1997年度は、それまで4千億円前後だった新規滞納税額が5400億円に増え、さらに増税2年目の翌年度には7200億円へと急増。税率が8%に引き上げられた2014年度も、前年度の2800億円から3200億円に増えた後、やはり2年目には4400億円へと大幅に増加した。

 

 ただ、税率が10%となった19年度の新規滞納は、前年度の3500億円から3200億円に減少した。滞納の発覚が減った理由は、国税当局が事業年度の終盤、新型コロナの影響で対外事務を事実上ストップさせていたためだ。しかし今後は調査事務の再開によって、過去同様に滞納の発覚が増加していくと見られている。

 

 消費税の納税資金を確保できない場合、見逃すわけにはいかないのが納税時期の先送りという手法だ。

 

納税先送りを検討

 消費税は前事業年度の納税額が48万円以下の法人を除き、事業年度の途中に「中間申告」をして納め、事業年度終了後に実際の業績に合わせて税額を調整する仕組みとなっている。中間申告の税額は前期の納税額を基に計算するのが原則で、税務署から送られてくる書類にもそのルールに基づいて計算した金額が印字されている。

 

 だが前期の納税額に応じた額を必ず支払わなければならないとなると、好業績で多額の消費税を納めた翌年に業績が悪化した場合、事業者の負担が重く、納税資金が不足するということになりかねない。そこで今期の売上が大きく減少している事業者は、前期の消費税額に基づいた額を納税額とせず、今期の決算を中間申告の時点で仮に行い、その数字に基づいた税額を納めることも可能だ。新型コロナの影響で今期の売上が大幅に減少し、上半期の業績に基づく仮決算が赤字となるなら、中間申告の時期には納税する必要がなくなる。

 

 ただし、仮といっても確定申告と同じように決算業務が必要で、手間と費用が掛かってしまう。また最終的に確定申告で調整するので、トータルの税負担は変わらない。仮決算の手間やコストを踏まえて中間申告の方法を選ぶようにしたい。

 

 また、新型コロナの影響で中間申告できない状態の事業者は、申告期限を延長できることになっている。延長の手続きは本来の申告期限を過ぎた後でも可能で、「中間申告書を提出できる状態になった時点」に行えばよい。

 

 手続きも特段難しいものではなく、中間申告書の余白の部分に、新型コロナの影響による期限延長申請をすると記載すれば認められる。仮に滞納したと税務署に判断されて督促状を受け取っていても、その手続きによって督促状は無効になる。

 

 さらに、新型コロナの影響で今年2月以降の1カ月間の収入が前年同期の8割未満となっていて、納税ができない状態なら、納税猶予の特例によって納付を先送りすることも可能だ。この特例を使えば最大1年猶予され、担保や延滞税も必要ない。条件に該当する事業者は積極的に活用しなければ損といえる。

 

課税方式変更も視野に

 消費税の申告については、「原則課税方式」と「簡易課税方式」に分かれる消費税の課税方式の選択によって税額に大きく差が出ることも理解しておきたい。手持ちの現金に余裕がない場合は早急に税理士に相談すべきだろう。大半の課税取引に旧税率を適用していた前事業年度と比べ、今後は方式によっては税額が大きくなりやすいので注意が必要となる。

 

 簡易課税方式は、消費者や取引先から受け取った売上分の消費税と、業種ごとに定められた「みなし仕入れ率」に基づき算出した仕入れ分の消費税で税額を計算するもので、原則課税方式と違い、実際の仕入れ分の消費税額は考慮に入れない。すなわち仕入れの際に支払った税額が高額でも、その額を売上分の消費税から控除できず、還付を受けることもできない。そのため、設備投資などによって仕入れ分の消費税が高額になる事業年度は、原則課税方式を適用した方が一般的に得ということになる。

 

 課税方式の切り替えは原則として事業年度の開始前に税務署に届けなければならないが、今年に限っては、新型コロナの影響で業績が悪化した事業者であれば、事業年度の開始後でも切り替えが認められることとなっている。例えば新型コロナの感染拡大を防ぐための設備を導入する必要が生じた事業者は、事業年度の開始後でも簡易課税方式から原則課税方式に変更し、控除や還付を受けることが可能だ。

 

 また、事業年度開始前に高額な設備投資を予定していたために原則課税方式を適用していた事業者が、新型コロナの影響で投資を取りやめた場合には、簡易課税方式に変更することが可能となる。

 

 通常の課税方式の変更は選択した方式を少なくとも2年は継続する必要があるが、この特例を使えば翌事業年度に元の方式に戻ることもできる。あくまでも納税者が選択するもので、有利な方式に自動的に切り替わるわけではないので、どちらが税負担が少なくて済むのかということを確認しておく必要がある。

 

 黒字法人だけを対象とした法人税と違い、消費税は赤字でも支払わなければならない。来期を飛躍の年にするためにも、消費税の納税対策は欠かすことができない。

(2020/12/01更新)