税金の〝払い過ぎ〟多発

税理士のミスが原因のケースも


 税理士のミスを保険金でカバーする「税賠保険」の最新の事故事例を見ると、例年と同様、消費税の簡易課税制度選択届出書の提出忘れなど単純な過失が目立つ。届出書を1枚提出しないだけでも税額は大きく変わり、多額の損失を生じさせることがある。今回発表された事例では損失額が2千万円に及ぶものもあった。典型的なミスをしないように、税賠事故の現状を確認しておきたい。


 申告代理を任せていた税理士のミスで、税金を必要以上に多く納めてしまうことがある。その誤りによる損害が大きければ、顧問税理士が相手といっても、損害賠償を請求するという選択肢をとることもあり得る。請求を受けた税理士が、税理士職業賠償責任保険(税賠保険)に加入していれば損失の補償に保険金を充てることもある。

 

 日本税理士会連合会(日税連)が、税賠保険の最新の事故事例を公表した。毎年この時期に税理士に周知しているもので、同様のミスを他の税理士がしないように注意喚起する狙いがある。だが今回公表された事例では、過去に紹介されたものと類似の誤りが目立つ。

 

 消費税の免税事業者だったA社は、課税事業者に該当するなら簡易課税方式にした方が有利だったが、顧問税理士が次年度以降も免税事業者であると判断したため、簡易課税の選択届け出をしなかった。しかし、特定期間(前事業年度の開始後半年)の課税売上高は1千万円超で、課税事業者の要件を満たしていたため、税額を抑えるには簡易課税方式の適用手続きをするべきだった。

 

 A社は有利な課税方式を適用しなかったことで発生した14 0 万円の〝損失〞を税務署から取り戻せなかったため、判断ミスをした税理士に損害分の賠償を求めた。そこで顧問税理士は税賠保険の運営会社に保険金を申請し、免責金額30万円を除く110万円を受け取り、損失の全額をA社に支払った。

 

 A社の損失は百万円台だったため免責分を除く全額が保険で補償されたが、損失が数千万円単位だったらそうはいかなかったかもしれない。税賠保険(個人)の補償上限額は支払う保険料によって異なり、顧問税理士の契約内容次第では上限が500万円や1千万円程度の場合もある。損失の一部しか補てんされないこともあり得るわけだ。

 

消費税関連でミス続出

 また、税賠保険は全ての税理士に加入が義務づけられているものではない。加入率は開業税理士(個人事務所)で50・41%に過ぎない。税理士法人でも83・98%で、約2割の法人が未加入となっている。年を経るごとに加入率は高くなっているが、上昇率はわずかで伸び悩んでいる状況だ。

 

 加入者がそれほど増えてはいないにもかかわらず、顧客から損害賠償を請求される税理士は大幅に増えている。税賠保険を扱う日税連保険サービスによると、平成24年には281件だった保険金の支払い件数は、29年には527件となり、わずか5年で2倍近くに増えている。

 

 特に多いミスは消費税に関するもので、29年の税賠保険事故の半数近い251件を占めている。中でも原則課税方式と簡易課税方式の適用や課税事業者・免税事業者の選択に関する届出書の提出漏れが圧倒的に多い。

 

 これらの誤りはあくまでも税賠保険に加入する税理士が起こしたもので、未加入者の分を含めれば申告ミスの件数は大幅に増える。開業税理士の税賠保険加入率は約50%に過ぎず、明るみに出ている税賠事故件数の倍の誤りがあってもおかしくはない。

 

損害賠償5年で倍増

 さらに、税制の選択ミスによって税額を低くできていないことに納税者側が気づいていないケースもあり得る。都内のある税理士は「仮に税理士が気づいても、顧客に訴えられることを恐れて自分からは言い出さないケースもあるのではないか。特に税賠保険に加入していなければ、損害を全て自分で被らなければならないのだから、口をつぐんでしまってもおかしくない」と、発覚している申告ミスは氷山の一角に過ぎないと指摘する。

 

 なお、納税後に発覚した申告ミスによる過大納付は、申告書の記載金額を単純に間違えていた場合や、税法の規定に沿っていない方法で税額計算をしていたケースであれば、「更正の請求」の手続きを経て還付を受けることができる。例えば単純な計算ミスや、法人所得から差し引くべき経費の計上漏れなどであれば減額の請求が可能だ。

 

 一方、正しい税務処理の方法が二つ以上あって、適用したものとは別の方法に変更することで税負担を減らしたいというケースでは、更正の請求を利用できない。A社のケースはまさしくそれに当てはまるものだった。適用する税制の選択によって納税額を下げることができたとしても、多く支払った分を税務署が返してくれることはない。

 

 税の専門家として日ごろから全幅の信頼を寄せている顧問税理士であっても、税務申告でミスをしてしまう可能性はゼロではない。大半は届出を失念するなどの単純なミスで、申告前にチェックすれば防げたはずのものだ。少しでも失敗を減らすために、経営者もこうした事例から間違えやすい点を把握しておきたい。

(2019/08/30更新)