放置するとあとでたいへん!

「社長借入金」と「名義株」

目に見えにくい相続財産


 相続対策を講じる上での大前提となるのが、相続税の課税対象となる財産の把握だ。現金や預貯金、不動産、経営者名義の自社株などは分かりやすいが、なかには目に見えづらく、ともすれば失念しがちなものも存在する。それらを放置してしまうと相続が発生してから多額の税負担に悩むことになるため、生前の対策が必須だ。特に金額が膨らみやすい「社長借入金」と「名義株」は、問題の解決に時間がかかることも多く、一刻も早く手を打たなければならない。


 資金繰りが厳しくなったときの当座の運転資金として、社長個人が一時的に会社にお金を入れるというのはよくある話だ。こうした「社長借入金」は、資金繰りに余裕のある時に返せばいいが、返却期限が決められているわけでもなく、身内からの借金ということもあり、なんとなく日々の払いのなかで後回しにしてしまいがちだ。一時的に返したとしても、一度便利な方法として覚えてしまえば借金を繰り返し、気が付けば数千万円に膨らんでいるというケースも珍しくはない。

 

 会社への貸付金は、社長の債権だ。相続が発生すれば、相続財産として課税対象となる。手もとに現金としてあるわけでもなく、将来的に返してもらえる当てがあるわけでもない借金のツケに対して、数百万円から数億円の税負担が発生してしまうこともありえる。

 

 このような事態を防ぐためには、相続の発生までに会社への貸付金をゼロにする必要がある。まず思いつくのは社長が借金をチャラにすること、つまり債権放棄だが、債権を放棄すると借金を帳消しにしてもらった会社に「債務免除益」が発生し、法人税がかかる可能性があることに注意しなければならない。

 

 会社が赤字続きであれば、赤字の範囲内で少しずつ債権を放棄していくことで、債務免除益を帳消しにできる。だが、かつては経営難で社長借入金に頼っていたものの、今は好転して黒字決算ということであれば、その手は使えない。そうなれば債権にかかる相続税負担と、債務免除益にかかる法人税負担を比べた上で、あえて法人税を受け入れるということも考えたい。相続財産や会社の規模にもよるが、中小法人には法人税の軽減税率が認められているため、法人税を納めたほうが「お得」であるケースがほとんどだろう。

 

生命保険の活用で解消

 ほかにも、社長を被保険者として生命保険に加入し、その保険料を会社が負担する形で年々債務を解消していく方法もある。満期を迎えた時に保険金という一時所得が社長に発生するものの、返してもらう当てもなかった貸付金という不良財産が現金という「優良相続財産」へと生まれ変わるわけだ。

 

 どのような方法を取るにしろ、社長借入金の解決には時間がかかる。一番の悪手は借入金を放置したまま相続が発生することなので、早期の方針決定が重要となることは間違いない。

 

 社長借入金と並んで相続対策の落とし穴となりやすいのが「名義株」だ。名義株とは、株式の名義上の所有者が誰であれ、実質的な所有者が他にいるのであれば、真の所有者は後者であるとみなされる株式のことだ。名義株かどうかは、株式取得資金の出資者、名義人と引受人の関係、取得後の配当金の帰属状況などから判断される。

 

 今年4月には、戸建て住宅販売大手の飯田グループホールディングスが、創業者の相続に絡み、80億円以上の相続財産の申告漏れを指摘された。長男名義の自社株について、取得資金を出資したのが創業者であったことから名義株だと判断された。追徴課税は40億円にも上ったという。

 

 名義株の怖いところは、一見しただけでは問題があるように見えないため、顧問税理士も見過ごしてしまいやすいところだ。相続税の税務調査では、名義預金と並んで狙われる可能性が高い項目でもあり、相続が発生する前に名義株がないかをくまなくチェックし、疑わしいものがあれば対策を講じておかなければならない。

 

問題解決には時間がかかる

 とくに名義株問題が発生しやすいのが、平成2年の商法改正以前に設立した会社だ。現行制度では、会社の設立に必要な発起人は1人だが、商法改正以前は発起人を含めて8人の株主が必要とされていた。とはいえ新規に立ち上げる会社のために出資をしてくれる人はなかなか見つからなかったため、社長が親戚や知人から名前だけを借り、株式の取得資金は社長が全額を負担するということが当たり前に行われていた。これが今も放置される多くの名義株の原因となっているわけだ。

 

 名義株を解消する方法としては、株式を実質上の保有者、つまり経営者の元に集約しておくことが考えられる。ただし自社株の集約には多くの障害が伴い、それが名義株問題を一層解決困難なものにしていることに留意したい。

 

 たとえ株式の取得資金を負担したのが経営者であろうとも、株式の名義を書き換える際には、名義上の所有者に了解を得なければならない。順調に了解を得て名義の書き換えが進めば何の問題もないが、相手が株主としての権利を主張してきたり、書き換えを拒否してきたりすれば、長い交渉を覚悟しなければならない。もし買い取りを要求してくれば買取資金が必要となるし、交渉すらも拒否するのであれば裁判に発展するかもしれない。名義株の解消には時間とお金がかかることを認識しなければならないだろう。

 

 社長借入金と名義株に共通するのは、どちらも放置すればするほど相続発生の際のリスクが高まるということだ。問題解消には時間がかかることを踏まえ、早急に自社の状態を把握し、顧問税理士と相談の上で解決への道筋を見つけていきたい。

(2017/10/02更新)