差し押さえ、取り立て、公売処分…

暴走する地方税の徴収

滞納税額が大幅減


 国税、地方税ともに、税金の滞納整理が急速に進んでいる。差し押さえや公売による未納額の充当は国や地方行政の財源確保、また税の公平性のためには必要なことではあるものの、現場からは、個々の実情をあまりにも無視した強権的な徴税が横行しているという例が上がっている。本来なら行政が手を付けられない財産を強引に差し押さえた結果、滞納者が自殺に追い込まれるなどのケースもあり、まさに〝サラ金地獄〞の様相すら想起される状況だ。法人税以外、総増税時代のいま、誰にとっても差し押さえは「明日は我が身」の可能性を秘めている。


 2016年度の国税滞納額は8971億円で、ピークだった2兆8149億円(1998年度)の32%まで減少していることが国税庁の発表で明らかになった。当局では「滞納の未然防止と整理促進に努めた結果」と胸を張る。

 

 一方、地方税も滞納額は2002年度の2兆3468億円から1兆2210億円(15年度)へと半減するなど、やはり急速な滞納整理が進んでいる。

 

 「正直者には尊敬の的、悪徳者には畏怖の的」とは、1949年の国税庁開庁式でGHQ歳入課長のハロルド・モスが税務職員のあるべき姿を述べたものだ。この言葉どおり、昨今の滞納額の減少は、国税、地方税ともに、悪質な滞納者への厳然たる措置で税の公平性を保ったものと喜びたいところだが、現実は滞納額の減少は手放しで喜べる状況にはないようだ。

 

 昨年末に実施された全国一斉「税金・国保料滞納・差押ホットライン」には、税金や保険料を滞納して厳しい取り立てを受けている納税者から、「生活できない」「逃げたい」「生きていけない」といった切実な訴えが数多く寄せられた。

 

「やりすぎとも思える」実態

埼玉県内の自治体の収納推進課には国税徴収法の条文の一部が張られている(角谷啓一氏撮影)
埼玉県内の自治体の収納推進課には国税徴収法の条文の一部が張られている(角谷啓一氏撮影)

 滞納相談センターで多くの相談を受けてきた角谷啓一税理士は「滞納する納税者に問題があることも多いが、やりすぎとも思える徴収の実態がある」と話す。そして目に余るのが地方税の徴収で、「国税は差し押さえなどの強硬な手段を行使するにあたっては、あくまでも納税者の実情を考慮することをうたっている。もちろん建前上のこともあるが、それでも地方税の現場に比べれば、納税者に寄り添う姿勢が見られる」という。

 

 角谷さんらが税理士数名と共著で発行した『差押え』には、滞納処分に関する事件が4例ほど紹介されているが、その3つが地方税によるものだ。概要のみ紹介すると、月額5万円の分納を申し出たが拒否されたうえで「全額納付か会社を解散しろ」と迫られ、前途を悲観して自殺した静岡県内での事件。7人家族を移動式タコ焼き専用車で養う人が、滞納にあたってそのクルマをタイヤロックされて収入がゼロとなり一家で岸壁から飛び降りた熊本県内での例(6人死亡)。本来なら差押禁止財産である子ども手当を差し押さえられて長い裁判をたたかった鳥取県内の例。やはり差押禁止財産である年金を差し押さえられた77歳の男性が所持金110円という状況で餓死しているのが発見された千葉県内の例などだ。これらのうち2つ目以降がすべて地方税の事案である。

 

 差押禁止財産の差し押さえを強行した自治体では、「口座に振り込まれて現金化されれば差し押さえできる」とした98年の最高裁判決を法的根拠に挙げているが、それにしても無職の77歳の年金を差し押さえる行為に、行き過ぎの感は否めない。

 

 国税同様、地方税の差し押さえについても総務省では「滞納者の個別・具体的な実情を十分に把握した上で適正な執行に努めてください」と呼び掛けているが、努力目標に拘束力はない。それどころか自治体の課税課では、納税者の財産につき捜索や差し押さえを定めた国税徴収法の条文を来庁者に見えるところに貼り出しているケースさえある(写真)。課税職員を鼓舞する意味もあるのだろうが、ともかく納税者への威嚇としては十分だ。

 

督促無視は絶対にダメ!

 全国的に滞納者に対する差し押さえが強まったのは2005年頃からと見られている。これは小泉純一郎内閣による「三位一体改革」で地方交付税が大幅に削減されたときと重なる。自治体も当時の流行語のとおり「自己責任」で財源をかき集める必要性に迫られたのだろう。群馬県前橋市では04年の差し押さえ件数は896件だったが、翌年から急増し、14年間におよそ13倍の1万768件まで膨らんだ。

 

 こうした地方自治体による税金滞納者への強硬な取り立てや有無を言わさぬ差し押さえは全国的に広がっている。だが、それでも地域によって扱いに大きな差があるのが地方税の特徴だ。

 

 滋賀県野洲市のように、多重債務者への独自のプロジェクトを立ち上げ、滞納者それぞれに合わせたケアを実施し、取り立ての前に生活再建を目指す取り組みに力を入れている自治体もある。支払能力を回復することが、いずれは市の税収アップにもつながるという考え方だ。税金や国保料などの滞納に頭を悩ませる自治体は参考にすべきところも多いのではないか。

 

 大増税時代のいま、滞納も差し押さえも他人事ではない。納税者側の心掛けとして前出の角谷さんは、「まずは差し押さえられないようにすることが大事。督促や催告書、差押予告書は脅しではない。放置は絶対にしてはならない」と釘をさす。自分の暮らす自治体の現状を把握し、いざというときに慌てずに対処できるようにしておきたい。

(2017/09/29更新)