社長さん、その解約ちょっと待った!

生命保険の「保全」を要チェック

ライフプランに合わせて見直しを


 生命保険加入者を取り巻く状況の変化に応じて、ニーズに合うよう保障内容や契約形態の見直しを行うことを、「保全」という。その種類や手法は多岐にわたり、保険商品によってもさまざまだ。当然、好きな内容に自在に変えられるわけではなく、条件なども設けられてはいるが、保全によって可能となるさまざまな生保の活用法を知るのと知らないのとではライフプラン形成にも大きな違いが出てくる。保全でできることを確認しておきたい。


 もしもの時の備えや節税のために生命保険に加入している経営者は多い。しかし熟考を重ねて保険商品を選ぶ契約時に比べて、一度加入してしまった保険に対しては、決められた保険料を定期的に払うだけということが多いようだ。自身の人生や会社に大きな変化があれば、ライフプランも変わり、おのずと求める保障の内容にも違いが出てくる。加入済みの保険であっても内容を見直し、必要に応じて調整を行う「保全」が必要となるわけだ。

 

 例えば、社長が40歳のときに保険期間40年の定期保険に会社が加入したケースで、57歳時にがんが見つかったとする。ここでもし余命が5年もないことが明らかになったとしても、契約はまだ残り23年も残っていることになる。こうしたときには、保険期間の短縮が可能だ。保険会社によって扱いは異なるが、保険期間を見直して短くすることで、保険金額を短縮前と同額に保った上で保険料の負担を軽減することができるわけだ。

 

 逆に、同じ社長の保険期間が60歳までとなっていた場合は、61歳以降に死亡してしまうと死亡保険金を受け取れず、遺族への死亡退職金の支払いも困難になってしまう。このケースでは、先ほどとは逆に、保険期間の延長を検討すべきだろう。

 

 保全によって変更できるのは保険期間の長さだけではない。「変換(コンバージョン)」と呼ばれる手法では、保険会社の承認を得た上で、いま契約している保障金額の範囲内で他の保険商品に乗り換えることができる。保険期間が足りないというケースならば、定期保険から生涯保障の終身保険に切り替えることで、〝余命〞が伸びたことによって死亡保険金を受け取れなくなるリスクを完全に排除することができるわけだ。

 

 ただし変更後は新規契約として取り扱われ、保険料が返還時の年齢によって計算されるなどのデメリットが生じることもある。商品の内容や変換の条件などを重々確認した上での利用が必要だ。

 

事業承継の大きな助けにも

 何十年という保険契約期間を通して、会社の経営状態が変わらずにいられる保証はない。順風満帆だったときに加入した保険の保険料が、厳しい業績の時には重荷になってくることもあるかもしれない。保険の解約に踏み切るのも一つの手だが、契約によってはそれまで払い込んだ期間が無駄になってしまうこともある。そうした時に検討したいのが「払済保険」だ。

 

 払済保険は、以後の保険料を一切払うことなく、今まで支払ってきた保険料で積み立てられた額の範囲内で、一定の保障額の保険に変更する制度だ。これまで積み立ててきた保険料で一括払いして、新たな保険商品を契約するわけだ。

 

 この払済保険のメリットは、今後一切の保険料を発生させずに保障を継続することができ、解約返戻金も維持されるという点だ。逆にデメリットとしては、当初の保障額よりは減額されてしまうことが挙げられるだろう。税務処理が複雑になるという点も払済保険の特徴であるため、利用を検討する際には顧問税理士に相談するようにしたい。

 

 保険料の支払継続が困難になったときの対処法は、払済保険以外にもいろいろある。節税目的で決算直前に年払いする保険に加入したものの運転資金に余裕がなくなってきたということであれば、支払いを月払いに変更することで、負担を平準化するという手法が考えられる。また生命保険の持つ機能の一つとして知られる契約者貸付制度も、一時的な資金繰り悪化を助ける有効な手立てだ。ただし契約者貸付制度は生命保険の「社外貯金」としての役割を担うもので、経営計画にも関わってくるため、利用は慎重に行いたいところだ。

 

 これらの手法を知らなかったことで保険料が払えず、契約が失効してしまっても、あきらめるのはまだ早い。失効から一定の期間内であれば、同内容で契約を再度結ぶ「復活」ができる可能性がある。復活が認められる期間はまちまちだが、おおむね1〜3年以内となっているようだ。ただし保障内容を元通りにするためには失効中の保険料も支払わねばならない。

 

 ほかにも、払済保険への変更など、契約している保険から別の安い保険へ変更したときには、一定の期間内であれば以前の契約に戻す「復旧」を行えることがある。これについても、変更していた期間にかかる積立金の支払いや、場合によっては利子の支払いも必要となることは忘れないようにしたい。

 

 また中小企業では、後継者にしっかりバトンを渡す時間もなく先代社長が亡くなってしまうというような事業承継トラブルが起こり得るが、こうしたトラブルに対しても保全を役立てられることがある。

 

 生命保険の「年金払い特約」は、保険金が一括ではなく年金のように少しずつ支払われるものだ。2003年の国税庁の通達によって、「一括で受け取る」「一部を一括で受け取り、残りは少しずつ受け取る」「全額を少しずつ受け取る」という3つの方法を選べるようになったことで、事業承継に備えることが可能となった。一括受け取りを選択しないで分割で年金を受け取れば、法人税課税の対象となる利益を平準化でき、創業者の社長が突然死亡してしまうというような事態が起きた後も利益を安定的に計上して、納税金額も平準化することが可能だ。さらに金融機関が会社に対して抱く借入金返済遅延の不安を解消できることも、事業承継への大きな助けとなるだろう。

 

 このように生命保険の保全にはさまざまな手法があり、起こり得るライフプランの多様な変化に対応することが可能となっている。どのような条件でどのような保全ができるのかは保険会社や商品などによって大きく異なるため、必ず顧問税理士などの専門家に相談の上で、使える手法はフルに活用したい。

(2016/05/30更新)