最新版 所得隠しの発覚事例

海外通じた税逃れが続々

税務当局間の情報交換活発に


 「パナマ文書」に続き、タックスヘイブン(租税回避地)に多くの著名人が関わっていることを示す「パラダイス文書」がこのほど公開された。この名は、租税回避地は美しい島国が多いこと、また税金のパラダイス(楽園)といえることからつけられたそうだ。海外を通じた税逃れはタックスヘイブンに限らず様々な地域で行われており、国税当局が昨年度実施した所得税調査ではいくつもの脱税が発覚している。国税庁の「国際戦略トータルプラン」では、富裕層が持つ海外資産をターゲットとした課税強化のスタンスを打ち出していることから、今後はさらに厳しい視線が注がれることになる。当局の調査方法を知るためにも、海外取引に関する最新の申告漏れ事例を確認しておきたい。


 国税庁がこのほど公表した所得税調査の実績報告によると、平成28年7月〜29年6月に実施された実地調査7万238件のうち、申告漏れなどが見つかったのは5万8449件で、調査を受けた10件のうちじつに8件以上で問題が指摘されている。調査官が、高確率で申告漏れを指摘できる対象者を事前に絞り込んでいることが分かる。

 

 調査官が対象を絞り込む際に特に重点を置いているのが、海外資産を持つ人や海外投資をしている人への監視だ。というのも、通常の実地調査(特別・一般)1件当たりの申告漏れ所得金額は918万円であるのに対し、海外取引に関係する調査で発覚した金額は1720万円。つまり1・9倍もの〝成果〞を得られるためだ。平成28年度の海外関連の実地調査は3145件実施されており、そのなかには「どうせバレないだろう」と安易な考えで無申告だった事例もある。その概要を確認しておきたい。

 

「国外のやり取りはバレない」はNG

 会社員Aは海外不動産の譲渡で利益を得たにもかかわらず、税務署にその所得を届け出なかった(事例1)。海外での取り引きを把握されることはないだろうとAは高を括っていたわけだが、税務署はAの国内口座に海外から多額の現金が振り込まれている事実を把握し、何らかの所得が発生していた可能性があると判断した。

 

 金融機関を経由した国外への送金や国外からの現金受領が100万円を超えると、金融機関は現金の動きを記した「国外送金等調書」を税務署に提出する義務を負う。税務署は調書と納税者の申告の内容を照らし合わせて不明点を見つければ、「国外からの送金に関するお尋ね」などとする文書を送付し、納税者からのリアクションを待つ。この時点で当局が納税者のカネの動きに関心を持っているのは間違いない。後ろ暗いことがあるのに正直に申告しないのであれば、追徴課税を受ける結果になることも覚悟しなければならない。

 

 お尋ね文書を受けたAは海外から送金した分の不動産譲渡につき、申告漏れだったとして修正申告。ただしAには、ほかにも申告していない海外不動産の譲渡があったが、その取り引きについては税務署に申告しなかった。譲渡代金は現地の代理人から直接現金で受け取っており、金融機関を通じたやり取りではないため国外送金等調書には記されていなかったことから、税務署に把握されないと考えたのだ。しかし税務署は、海外から取り寄せた資料などを通じて譲渡の事実を把握していた。結局、Aは約2千万円の申告漏れ所得に対して加算税込みで400万円の追徴税額を課税された。

 

 税務当局はこの「国外送金等調書」に加え、富裕層が所有する資産をより細かく把握することを目的に、5千万円超の国外財産を持っている人には「国外財産調書」の提出を義務付けている。正当な理由のない国外財産調書の未提出や虚偽記載は1年以下の懲役か50万円以下の罰金となる。さらにその財産について所得税の申告漏れが見つかれば加算税に5%が加えられる。

 

 だが、海外に資産を持っている人が国外財産調書を必ず提出しているというわけではなく、税務署に未提出を指摘されてペナルティーを受けることもある。

 

 他国の預金にかかる利子所得を申告していなかったBは、その国の税務当局が日本との租税条約に基づいて利子収入に関する情報を提供したことで、申告漏れの疑いをもたれて調査を受けた(事例2)。その過程で、海外不動産を売却して譲渡益を得ていたにもかかわらず申告していなかったことが発覚。Bは国外財産調書を提出していなかったため、加算税を5%分加重され、2900万円の追徴税額を課税された。

 

情報交換制度で取り引き丸裸

 国外財産調書が未提出だったことから最終的に5%のペナルティーを受けたケースはほかにもある(事例3)

 

 会社代表だったCが調査を受けることになったきっかけは、やはり日本と他国の租税条約に基づく情報交換制度によるものだった。国税当局は他国の税務当局から、Cが海外に多額の資産を持ち、その資産の運用による収入があるという情報を得た。

 

 Cは会社の創業者である父から海外法人の株式や預金を相続し、多額の配当、利子、株式譲渡収入を得ていたにもかかわらず、無申告だったことが判明した。国外財産調書を提出していなかったため、Cは加算税を本来より多めに徴収された。

 

 このほかにも、出資した海外法人の利益分配金を、他国の居住者からの借入金と偽っていた納税者が、調査で所得の申告漏れを指摘されている。その納税者は金銭貸借契約書をねつ造し、また顧問税理士に虚偽の答弁をして所得を隠していたという。

 

 国税当局がいわゆる富裕層の海外資産への課税や監視を強化しているなか、明らかな違法行為である脱税はもちろんのこと、節税の範疇だとされているスキームであってもリスクが伴うことを理解しておきたい。

(2017/12/29更新)