政治資金規正法

天下のザル法を正せ!

会計士会が提言


 日本公認会計士協会近畿会が、〝天下のザル法〞とも言われる政治資金規正法の改正に向けて声を上げた。献金や政党助成金を原資とする政治家の活動資金の取り扱いについては同法で定めが置かれているものの、内実はごまかし放題、隠し放題の無法地帯となっている。政治家ならではのずさんな会計処理の数々に、会計のプロが提言したのは、民間企業ならごく初歩的に過ぎない「正しい会計のいろは」なのだから情けないと言わざるを得ない。


 日本公認会計士協会近畿会(髙田篤会長)は昨年末、国会議員と地方議員に宛てて、「政治家が自らを守るための政治資金の管理方法」と副題の付いた提言書を提出した。

 

 前書きでは、昨今多発する政治資金をめぐるスキャンダルに触れ、「真面目な政治家がこのような問題に巻き込まれないよう、安心して政治活動に専念するためにとるべき方策」をまとめたと、じつに〝丁寧〞に政治資金をめぐる会計処理の適正化を求めている。

 

 政治資金とは、個人や企業からの献金、パーティーの会費、政党助成金、政務活動費などによって得た、政治家の活動資金を指す。このうち政党助成金と政務活動費は100%が国民の税金から成り立ち、他の収入についても、有権者のために行動して役立ててほしいとの思いで委ねられたものであることは言うまでもない。

 

 政治資金規正法は、これらの原資に税金が含まれることを踏まえ、「いやしくも国民の疑惑を招くことのないよう、資金の収受は公明正大に行われなければならない」(2条)として、さまざまな規則を設けたものだ。

 

民間ではありえない〝緩さ〟

 しかし近畿会の提言書では、現行法には、適正管理を行えない数々の問題があると指摘している。政治資金の支出事務は個々の政治家ごとに行われているため、内容について複数人の監視の目が入りにくく、支出事務に関わる職員の人事権を政治家本人が持つこともあって正常なチェック機能を働かせることができないといった欠点がある。

 

 個々の支出内容についても、少額取引は収支記録が作成されず、領収書などが残らない。日用品購入や旅費、交際費は個人的な支出か政治活動としての支出かを判断しづらく、パーティー代など支出の事実自体を確認することが難しいものもある。

 

 こうした課題を解決するために、提言書は3つの方法を挙げた。1つ目は、政治資金の使途と開示に関する内部規則の作成と公表だ。政治資金に絡む不祥事の多くは、資金の使い道が「ブラックボックス化」していることにより生じる。この点を是正するため、①説明責任を果たすため、明瞭な会計記録を作成する、②架空請求や水増しを防ぐため、領収書を添付した実費精算を徹底する、③開示要求に対しては応える――といった要求を満たす記録を作るべきだと提案した。特に親族への支払いなどは追加的な説明責任を要することや、公私の区分が難しい時には、社会通念上合理的かどうかの基準で按分することも求めた。

 

 2つ目の要望としては、記録の正確さを保つためとして、複式簿記での記帳を提言した。単に支出のみを記録する単式簿記では、その支出が現金か預金かが分からず正確な経理処理を妨げるという。提言書は「民間企業において全ての企業が採用していることに鑑みれば、財産や収支を認識する有用なツールであることに疑う余地がない」と、その必要性を強く訴えている。

 

3つ目は、個々の政治家単位ではなく政党や会派ごとに資金管理共同事務センターを設けることを求めた。事務員の人事権を政治家本人が持つというような課題を解消すると同時に、複数の目が入ることによるチェック機能の強化にもつながるとした。

 

監査人制度は機能不全

 近畿会が挙げたこれらの要望は、経理内容の正確さと正当性を確保するための、至極まっとうな提案だ。というよりも、今まで行われていなかったことこそが不思議と言わざるを得ない。民間企業であれば複式簿記による会計は当然以前の大前提であり、領収書などの証憑を残すことも税法で定められた最低限の義務だ。これらがなければ金融機関や取引先の信頼を得ることはできないし、明日にでも税務調査が入るだろう。いかに政治資金規正法が〝ザル〞であるかが分かる端的な証拠と言える。これまで政治資金スキャンダルによって国民が損害を被った例は枚挙にいとまがなく、その見直しの必要性は言うまでもない。提言に則った迅速な制度の健全化を願うところだ。

 

 とはいえ、提言書では触れられていない〝不都合な真実〞もある。今回の提言では一切言及されていないが、現行の規正法にも外部によるチェック機能は導入されている。「登録政治資金監査人」制度がそれで、税理士、公認会計士、弁護士といった会計の専門家が収支報告書の内容をチェックするものだ。2015年5月時点で4607人が登録され、その4分の3を税理士が占めるものの、会計士もいなくはない。提言書が同制度に触れなかったのは、政治資金に絡む不祥事の多さからも分かるように、現行の監査人制度は機能していないことが明らかで、自らの〝怠慢〞を認めざるを得なかったからだろう。

 

 このことから分かるのは、重要なのは枠組みではなく制度を有効に機能させることだ。政治資金規正法をめぐる議論が大いに活発化し、多重のチェック機能が働くことこそが真に必要なのではないか。今回の提言書が、その議論の呼び水となることを期待したい。

(2017/04/02更新)